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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 3-11 新たな生活④

『キーンコーンカーンコーン』

 チャイムの音色が午前中の授業が終わった事を知らせる。
 購買部へ特攻する者、仲良しの友達と席をくっつけて弁当を広げる者、生徒たちは様々に昼食を楽しもうとしている。
 そう、この席も他の生徒と同じように例外なく昼食を「楽しもうとしている」のだが。

「な、何ですかそれ!?」

 柳原さんが俺たちの弁当を見て驚いたようだ。
 俺は席も近い事もありリコ、キキョウ、リオン、マサ、柳原さんで席をくっつけて弁当を広げている。
 以前にも言ったが俺は自慢ではないが料理が得意だ。
 朝という時間のない戦場でも、こんな弁当を作るのも朝飯前なのだ。

「猫のキャラ弁ですか……」

 そう、ルコ、キキョウ、リオンには俺様特製のねこねこ弁当をお見舞いしている。
 しかも、猫の目はそれぞれのカラーに合わせた赤、青、黄という凝りようである。

「どうだ? 可愛いだろ?」

 俺は自信作を前にして、先ほどの柳原さんとリコのように胸を張ってみせる。

「タ、タカシさん。私たち高校生ですよね。」

「キャラ弁に年齢の壁なんてない。」

「ここの耳の角度が違う。」

「おい! こら! どう違うんだ? 俺の自信作を修正するな!」

「か……かわいい……たべられ……ない……」

「リオン、弁当の蓋を閉めて持ち帰っても腐るだけだよ。」

「タカシ、これお前が作ったのか?」

 3人の思い思いの反応に満足していると、隣の席で購買部で買ったカレーパンをかじっているマサに声をかけられた。

「おう。俺が作ったけど?」

 やはり高校生でキャラ弁は気持ち悪いかと心配していたが。

「今度、俺のも作ってくれ。」

「何でお前の弁当を俺が作らないといけないんだよ。」

「たのむ!」

 マサはそう言うと、机に頭を擦り付けてくる。

「マサ、諦めてくれ。」

 ちなみに、もうマサと呼んでいる。

『ぐい。』

 突然、柳原さんが俯きながら俺の袖を引っ張ってくる。

「ずるい……」

「え?」

 何だか柳原さんがワナワナと震えている。

「そんなの、ずるいです!」

 この声量にクラス全員の視線が柳原さんに集中する。

「や、柳原さんどうしたの!?」

「兄弟だからって近藤くんにお弁当作ってもらうなんてずるいです!」

 柳原さんは俺の袖をぐいぐいと引っ張りながら頭をブンブン左右に振っている。
 何だか俺の事を忘れる前の柳原さんとは印象が180度異なっている。

「私も近藤くんのお弁当が食べたいです!」

 見た目は大人びているのにこんなにも子供っぽいところを見てしまうとどうにもギャップが可愛く思えてしまう。

「ま、まあ材料を増やすだけでそこまで手間は変わらないから、今度柳原さんの分も作ってくるよ。」

 そんな態度でお願いされたら断れるわけがない。

「タカシ!? 俺の時と対応が違くないか? ひどくないか?」

「そりゃ女の子優先だろ。」

「タカシーー!」

 マサはハンカチの代わりにカレーパンの袋を咥えて悔しさアピールをしているが、見ないことにしよう。

「あっ! ごめんなさい! 私、取り乱しちゃって……」

 どうやら柳原さんはひとつの事に集中すると周りが見えなくなってしまうようだ。
 きっと一途なところがあるのだろう。

「ふんっ。柳原さん? お兄ちゃんのお弁当が食べたいなんて10年早いですわよ。身の程をわきまえてから懇願したらどうですの?」

「なっ! なんですって!?」

 やっと冷静になってくれた柳原さんへルコが挑発するような事を言って再び火をつけようとする。
 この2人はどうやら馬が合わないようだ。

「ルコさん? そう言うあなたはどうなんですか? 近藤くんがお弁当を作ってくれている事にちゃんと恩返しはできていますか?」

「そ、それは……」

 柳原さんは俺とルコが長い付き合いで頻繁に俺がルコへ弁当を作っているものと思っているだろうが、俺とルコが出会ったのは昨日今日の話なので、ルコは単純にその問いに対する答えがなく戸惑っていたのだろう。
 だが、柳原さんはそのルコの反応を否定と受け取ったようで、ルコへ更に挑戦的な言葉を浴びせる。

「恩返しができていないんですか? それでは近藤くんも浮かばれないですねぇ。」

 柳原さん、どうしちゃったんだろう。
 何だか性格がどんどんブラックな方向へ突き進んでいる気がする。
 勘違いかもしれないが、俺に好意を向けてくれているので悪い気はしないのだが、ルコに対して異常なまでの対抗心を燃やしている。
 そして、ルコも柳原さんへ対抗心を燃やしていることは言うまでもない。

「わ、わたくしだってお兄ちゃんに恩返しぐらい考えていますわよ? そうですわ! 今度はわたくしがお兄ちゃんにお弁当を作ってあげますわ!」

 ルコが俺に弁当を作ると言っているが、ルコが料理できるかすら俺にはわからない。
 大丈夫だろうか。

「そうですか、ルコさん。それではこうしませんか? 私たちもお弁当を作って、近藤くんが食べたいと思ったお弁当と交換するのはどうかしら?」

「望むところですわ。」

 何だか話がややこしい事になってきている。
 これは俺が最終的に誰の弁当を選ぶかというよりか、誰を選ぶかの話になってきそうである。
 ここで新たな乱入者が現れる。

「やなぎっち。私たちってことはもちろん俺も入ってるんだよな? 俺に勝てると思うなよ。」

「え、植松くん、これは私とルコさんの……」

「植松さんいいですわよ。それとも柳原さんは植松さんに負けることが怖いのですか? 誰が参加しようと私の敵ではありませんわ。」

 相変わらずルコは自信満々だが、その自信はどこからきているのだろうか。

「くだらない。私が勝つに決まっている。」

「タカシさんに……わたしの……おべんとう……うへっ……ぐへへ……。」

 どうやらキキョウとルコも参加するようで、何だか話が勝手に進んでいる。

「それじゃぁ。早速明日のお弁当を作るために帰りにみんなでスーパーに寄って行きましょう!」

 柳原さんはやる気満々という感じでそう言うと、放課後にいつも俺が通っているスーパーへ皆で向かうことになった。


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