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魔王、猫になる。〜魔王さまのほのぼの世界征服ライフ〜 第18話 魔王、泥酔する。

 我輩は魔王である。名はトラ吉。

 元いた世界で我輩は魔王として君臨……。

 いや、もうそんなことはどうでも良い!

 ゆゆしき事態が発生したのだ。

 これを見てほしい。

 一見するとただの棒切れにしか見えんであろう。

 だが、そう見えたのだとしたら愚かなことだ。

 我輩にはわかる。

 よく見るがいい。

 この禍々(まがまが)しい樹皮の凹凸と曲線を。

 魔界でも最奥のジャングルに住むと言われる伝説のドライアド・ドラゴンの表皮に瓜二つなのだ。

 そして、何よりも鼻を近づけるだけでその魔力に我輩の精神がやられてしまうのだ。

 魔王であるこの我輩をここまで狂わせる劇薬がこの世界に存在したとは。

 我輩がこの世界を征服した暁にはこの劇薬を集めて日がな一日……。

 いや、違う!

 こんなものが敵の手に落ちてしまっては世界征服どころではなくなってしまう。

 こんなにも甘美でかぐわしい……。

 こんなにも……。

 ふごっ。

 ぶふぅ。

 ふへっ。


 はっ! いかん! この顔は魔王としていかん!

 また鼻息を荒くして意識を手放してしまった。

 恐ろしい劇薬ぞ。

 またこれは原木という。

 原木でこの魔力量とは恐ろしい。

 これを加工して高純度になどされた日には……それはもう素晴らしい……。

 い、いかん。

 もはや思考回路までも汚染されてきておる。

「あ! ちゃーちゃん! しまってたマタタビまた勝手に出してべろんべろんになってる!」

 主人①よ、人聞きの悪い。

 我輩はただこの「またたび」と呼ばれる酒を嗜んでいただけであるぞ。

 ただ楽しむだけではつまらんからの。

 ひと芝居打っていたところだ。
 
 む?

 芝居ではなく、我輩が酒に飲まれていただと?

 魔界での我輩は名の知れた酒豪ぞ。

 酒に飲まれるなど天地が返ってもあるわけがなかろう。

 どれ、今宵も長い。

 まだまだ酒を愉しむとするか。

 そう、その時が来るまでは。



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