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魔王、猫になる。〜魔王さまのほのぼの世界征服ライフ〜 第12話 魔王、魔王を失う。

 我輩は魔王である。名はトラ吉。

 この世界の人間は全く鬼畜極まりない。

 我輩がただの猫だと愚弄しているのではないか。

 だが、今思い出しても震えるほど恐ろしいことをする。

 まぁ我輩に取ってこの体は一時的な拠り所。

 失うことに対してはそれほど……ショックでは……ないぞ……。

 そう我輩は失ったのだ。

 我輩が魔王たらしめるそれを。

ーーー

「ちゃーちゃん。それじゃ行こうか。」

 主人①よ、そのカゴはまた「どうぶつびょういん」に行くのか。

「ちゃーちゃん。ごめんよ。ごめんよ。同じ漢として心が痛い。」

「なに泣いてるのよ。ちゃーちゃんのためでもあるんだよ。」

「ちゃーちゃんのためって、よくそんなことが言えるな! そんなの人間のエゴだよ!」

「あー、もうめんどくさいわね。」

 主人②よ、何をそんなに悲しんでおるのだ?

 だが案ずることはない。

 我輩は魔王であるぞ。

 また、「チクッ」とするのであろう。

 あの程度の拷問ならいくらでも耐えて見せようぞ。

 だが!

『ブォーー』

 車だけは耐え兼んのだーーー!

「はい、ちゃーちゃんついたよー。」

「う、うっ。ちゃーちゃん……ごめんよ……うっ。」

「ちょっと、もう家じゃないのにそんなに号泣しないでよ。」

「だって…。」

 主人②よ、しつこいぞ何を泣かぬとも良いであろう。

「トラ吉ちゃん、逃げずによく来たねー。」

 む?

 お主、我輩を魔王と知って挑発しているのか?

「血液検査の結果問題なく去勢できそうなので、本日手術してから経過を見るため1日から2日は当院でお預かりしますね。」

 な、なんだと。

 「チクッ」っとするだけで1日から2日預かるだと。

 おかしい、前回とは明らかに違う。

「ぢょぉらぁきちぃぃ。」

「あ、あの大丈夫ですか?」

「朝から漢がなんだとかうるさいんで放っておいてください。」

「わ、わかりました。それではトラ吉ちゃんをお預かりしますね。落ち着いたらお電話でおしらせしますので。」

「わかりました。お願いします。ほら!いっくよ!」

「ぢょぉらぁぁぁ、耐えるんだぁぁぁ、希望を捨て……」

『ウィーン』

 主人②よ、扉の向こうまで叫びおって情けない。

「さ、トラ吉ちゃん。心の準備はいい?」

 我輩はこの世界を征服し魔界に帰るという重大な使命があるのだ。

 どのような拷問にも耐えて見せようぞ。

ーーー

 だが、その拷問は我輩の想像をはるかに超えておった。

 人間とはなんとも無慈悲なものか。

 魔族とてこのような拷問は考えつかんぞ。

 だが、このようなことで我輩の意志は折れるほど柔ではない。

 それに、この世界は悪いことばかりではないからな。

 その時が来れば、全てが相殺され、全てが報われる。

 それまでは、この世界を堪能してやろうぞ。

 し、しかし、この事はチャッピーたちには秘密だぞ。

 そう、その時が来るまでは。


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