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ひねくれ革靴④【スコッチグレイン】限定に人類は弱い&モーモーとサステナビリティ


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1.スコッチグレイン1【質実剛健な国産の良心】

スコッチグレイン(SCOTCH GRAIN)は株式会社ヒロカワ製靴のシューズブランドです。ユーザー的には「スコッチグレイン=株式会社ヒロカワ製靴」という理解で問題ないと思います! 

1964年から東京で自社一貫生産をしている由緒正しい国産革靴で、これまた色んなブログに取り上げられているのですが、店員さん自身が書いているブログがたくさんあるのが特徴だと思います。

中でもおすすめはエキサイトブログにあがっている、ちょっと古い2012年とかのブログです。指が入っちゃった写真を普通にアップしてたり、文章ものほほんとしていて、牧歌的な古き良きブログです。(良い意味で!)

靴の話だけでなく、みんなで焼肉行きましたとか高尾山行きましたとかあんまり興味の無い内輪ネタもありますが(笑)、たくさん読んでいるとそこも味と思えてきます。アットホームというか内輪ネタなかんじがするブログです。(良い意味で!)

イチオシの記事は、以下のフランスはアノネイ社での工場見学の記事です。皮がなめされて革になっていくのです。

スコッチグレインの店員さんのブログは現在は以下のインスタに移管されています。牧歌的なかんじは無くなっておりますが、スタイリッシュな正しい広報活動用SNSになっているかんじです。

これはこれで最近の情報発信としては至って普通だと思うのですが、個人的には温度感というか手垢感というか、良い意味で手作り感のある昔のブログが好きです。

いきなり古いブログ紹介とかから入ってしまいましたが、よく紹介されるブランドの特長としては、グッドイヤーなのに安い、ウィスキーで靴を磨く「モルトドレッシング」、東京都墨田区での自社生産、等になるかと思います。これだけだとぴんと来ない気がするのですが、ばくっと言うと「質実剛健」が軸なのかと思います。

革靴において「国産」って、
①関税がかかってなくて安い、なのに日本の丁寧なモノづくりで質が良い
日本人の足の形にあわせたラスト(木型)で足にフィットしやすい
手に入りやすく修理もしやすい
という3点が長所と言われがちですが、スコッチグレインはまさにその代名詞です。道具としての靴において質・価格これ以上無い選択肢だと思います。まさに質実剛健です。

まあともかく工場動画を見て頂きたいのです。なんと14万回再生です。「丁寧に作られているのに安い」ということを「コスパが良い」という言葉ではなく、「質実剛健」という言葉で表したくなる感じです。

以下はあんまり再生数伸びていませんが、こっちもいいです。大人の社会科見学です、胸熱です。

あとはパラブーツと同じく、公式なムック本があるのでぜひご検討ください。社長さんのインタビューとか「おおぅ」ってなります。あと、上述の昔のブログに出ていた土岐店のあの方がいっぱい出てきていて「おおおぅ」ってなります。やんちゃっぽいブログ時代から円熟味を増しているかんじで、土岐店のあの方のエイジングが感じられて感動します(とても失礼)

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2.スコッチグレイン2【奇抜すぎるデザイン】

そんなストイックで武骨にも見えるスコッチグレインですが、実は派手で独特なデザインの靴もたくさん出しているのです。

まずスコッチグレインといえば「スパイダー」です。余った革の端っこを繋ぎ合わせていて、モザイクタイルアートのようなデザインです。これにスパイダーってつけるネーミングセンスも新進気鋭だと思います。

「スパイダー」

つづいて「マトリックス」です。こちらは虫刺されの跡や血筋が現れた革に、さらに上から刃物でカット跡をつけて、デザインとしています。

「マトリックス」
ソールもハトメもド派手です。
ソールの名前はクレイジーソールらしいです。。。

このあたりはまだまだ大人しい方で、「パンダシューズ」というのまであります。せめて白黒パンダだけにしとくべきでは、と思います。。。受注販売ではあったそうですが、どのくらい売れたのか気になります。。。

「パンダシューズ」

そしてこのギンギラギンな靴。その名も「メダリストスパイダー」です。これはもうどこぞの社長しか履きこなせないのでは、、、スコッチグレインの工場見学とかに行く時しか履けないのでは、、、と思います。しかし再販するってことは売れ行き好調なのでしょう。。。¥66,000と意外と安いのがまた気になります。

「メダリストスパイダー」

最後に、「ダブルストレート」というデザインの「956」です。「ダブルストレート」は一般名詞かもしれないのですが、スコッチグレイン以外では見たことの無いデザインです。

ダブルという名前ですがどう見ても三本走ってます。メダリオンまでついて、ごちゃごちゃです。しかし、わたしはこういうおっさんぽいデザインが好きです。パンダやゴールドを見た後なら、このぐらい普通に見えます。

「956BL」
三本どころか、四本に見えます。。
ダブルには見えません。。。


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3.イヤーモデルの魅力。売ってないならオーダーすればいい?? 金ない、待てない、人生短い!!

パンダシューズやメダリストスパイダーもそうですが、スコッチグレインは限定品が多いです。毎年、限定モデル、すなわちイヤーモデルが出ています。

靴業界ではジョンロブが有名ですが、イヤーモデルは自動車業界などにもあり、売る側的にもメリットが大きいのかと思います。

①供給できる数を上限にする形で、(人気があればという前提はあるものの)売れ残りの心配が無い。

②価格が維持しやすい。セールで安く売り払わなくていい。

③買い替えサイクルも縮まる。ロイヤリティが高い顧客なら、毎年買ってくれる。

こんなところが売り手側のメリットになるかと思います。

買う側的にも、限定と言われると無条件にワクワクします。限定に人類は弱いのです。今買わなきゃもう買えない、という機会損失への恐怖に背中をプッシュされます。

しかし問題は、過去のイヤーモデルが欲しくなってしまった時です。販売終了している靴が欲しいとなったらどうするか、です。

まず、廃番のものはオーダーすれば良い、という札束ですべてを解決する荒業があります(?)。ビスポークとかいうやつです。でもあれ、安くて20万とかですよ。無理ですー。あれ、この話何度目??

(※ちなみにネットで検索した範囲だと、スコッチグレインでオーダーが出来るかは不明です。以前はパターンオーダーが出来たみたいな記載がチラホラあるのですが、謎です。)

そ、それに。オーダーしたらデザインとかは思い通りになるかもですが、「カールフロイデンベルク」とか「ロシアンカーフ」とか今は手に入らない革も色々あるわけです。あと、昔の方が革質が良かった、なんていう話も聞くわけじゃないですか??

そ、それに。オーダーとか待っていられないのです。オーダーは半年待ちとかふつーです。むしろ早いほうです。そんなに待ってられないのです。今すぐ欲しいのです。人生は短いのです。


脱線ですが、革靴職人を描いた『IPPO』という漫画があります。
イタリアの最強の師匠に幼少期から育てられた最強の主人公が、日本に異世界転生して、井の中の蛙になっている成金ファッション富裕層共をぼこぼこにしていくという、なんとも痛快なストーリーです。

この主人公が、父親の靴を作るのですが、なんと三日で仕上げます。三日です、三日。意味がわかりません。三日で出来るなら、ずっと三日でつくってよと言いたくなります。

「IPPO」
おもしろいです

自分がビスポークできないからってひがんでテキトーなことをたくさん書きましたが、とてもおすすめの漫画です。5巻で完結というちょうどいい長さで万人におすすめです。

まあそんなこんなで、オーダーするお金もなく、靴が出来上がるのをのんびり待つ心の余裕もない、私と同じそこのあなた。

フリマサイトに興味が出てきましたね??

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4.運命を信じますか? シンデレラ革靴

またしても私の思い出を聞いてください。実はここまでの話、ぜんぶ伏線でした。

まず私は、956というモデルの「ダブルストレート」というごてごてしたデザインが気に入りました。おじさんぽいのですが、そこがいいのです。

「956BR」

だけど、ちょっと茶色がライトブラウン系すぎるなぁというか、もうちょっと暗めがいいなぁと思います。これのダークブラウンがほしい。ダブルストレートの焦げ茶色を所望です。そう思った私はネットサーフィンを開始します。

そして早速見つかりました。2020年のイヤーモデル「O-2020」が、ダブルストレートの焦げ茶ではありませんか!

「O-2020」
この色はとても好きです
でも寄ると、ちょっとイメージと違うかも。。。

しかし、2つ気になる点がありました。
まず一つ目が「シボ革」というぶつぶつした革です。「型押し」とか「エンボスレザー」とかいうやつです。私はちょっとこれが苦手です。集合恐怖症的なニュアンスで、ちょっとそわそわします。みぞみぞしてきます。

二つ目に、寄るとちょっとくどいかもと思います。蛇っぽいというかただでさえダブルストレートでくどいのに、さらにそこにツブツブです。ちょっとデザインがこってりしすぎかもしれません。というか、やっぱり問題はブツブツだけかもしれません。

と悩んでいたら、フリマサイトで狙っていた「O-2020」が売れてしまいました。

そしてイヤーモデルなこともあってか、「O-2020」はその後、なかなか出品されません。一期一会を逃してしまったのです。気にせず買えばよかったかなと後悔していたある日、フリマサイトで運命の出会いがあります。

なんと、求めていたダークブラウンのダブルストレートの革靴が出品されたのです。しかもブツブツがありません。シボ革ではないのです。

型番の部分の写真が無かったので、外観からしか判断が出来ないものの、現行モデルで無いことは確実でした。ネットで色々調べても分からないので、、、とりあえず落札しました。
(こういう衝動買いするから失敗するんです)

これを逃すと後悔すると思ったのです。それにコメントで質問をして写真追加してもらってとかもめんどくさいですし、その間に売れてしまうかもと思ったのです。

そしていよいよ届いたらなんとびっくり、それは2003年限定の「L-0321」というモデルでした。

「L-0321」
Lがリミットエディションで、
03が20003年モデルのことらしいのです。

状態もとても綺麗でした。全く履かれていないぐらいの、いわばミントコンディションでした。購入した時はちょっと高いなと思っていたのですが、20年前の靴でこの状態なら全然納得でした。

2020年限定の「O-2020」を購入していたら、この子とは出会えなかったわけです。これを運命と言わずに何と呼びましょう。テンション上がりまくりです。爆上げです。

これまでと全然違うことを言うのですが、ネットで運命の出会いを探すのは楽しいです。釣りにも似ているし、ギャンブルにも似ているし、ガチャにも似ているし、マッチングアプリにも似ているし、ともかくこの偶発性が! 一期一会感が! とてもクセになります。

前回までに書いたような、「サイズが合っていて」・「状態がよくて」。
なおかつ「価格が適切で」・「何より運命を感じられる」。そんなシンデレラ革靴を探すのは楽しく、もし本当に出会えたらとても嬉しいです。

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5.「モーモー」が好き&サステナビリティ

ところで話が戻りますが、スコッチグレインの特長のいうか企業文化のひとつに、「材料を無駄にしない」というのがあります。

上述の、革を繋ぎ合わせる「スパイダー」や、傷を上書きする「マトリックス」なんてまさにそうです。

革を社内で無駄なく裁断し、残った端材やダメージのあるものも靴にして。そして、それでも余った革は「モーモー」にしているのです。

「モーモー」

「モーモー」とは、スコッチグレインが販売している牛の形の革小物です。特に使い道はありません。テレビの横とか本棚の上とか玄関とかに飾るくらいしかありません。

しかし、いいのです。だってこれ、本革なんです。触って眺めてるだけで革好きとしては堪らないのです。

そして何より、、、安いのです。

「MOMO-S」なんと

「MOMO-S」なんと、税込110円です。百均です。原価いくらやねん、と。これじゃ赤字やろ、と。

しかもこちら、お店の人に聞いたら、仕舞ってあったのぜんぶ出してくれたのです。箱に入ってる20頭ぐらいのモーモーを見比べさせてくれたんです。「革の余りでつくってるんで色々違うんですよー。これとかレアですよー」なんて言ってくださるんです。なんてやさしいのでしょう。単価110円なのに、面倒くさがらず接客してくださるなんて。

感動し過ぎてついガチャガチャするみたいな気軽さで、近くを通りかかるたびにぷらっと立ち寄って1頭連れ帰ってしまいます。

(毎回、ポイントカードを提示しているので、購入履歴で靴を買わずにモーモーばっかり買っていく客がいる、と思われてるんじゃないか。。。と恐れています。。。)

(いや、ほんとに店員さんどなたもいい人なのでそんなことは無いと信じています。。。)

(いや、思われてなくても靴を買え)

一頭一頭、接客してくださった店員さんの
顔を思い出します。
モーモーに思い出が籠っています。
背中には刻印があります。
尻尾の硬さもそれぞれ違います。

イヤーモデルの端材でつくった「イヤーモデルモーモー」もいるらしいです。私の持っているののうち、レアなのは以下の2頭です。カッティングの入った「マトリックス」で出来ています。

左がモーモー(小)。右がモーモー(大)。
ワンピースのゾロっぽくてかっこいいです。
シンプルなデザインで、
表情もないし、喋ったりしないし、
良い意味で今っぽくなくて素敵な小物です。

モーモーをマスコットとして、アイコンとしてごり押ししてもいいはずなのに。。SDGsを謳って、サステナビリティにわっしょいしてもいいはずなのに。。そういうことをしないのがスコッチグレインなんです。モーモーなのです。なんて不器用なんだ。

でもだからこそ、信用できるのです。流行りの横文字に踊らされたりせず、バズりを狙って行き当たりばったりなSNS発信とかしないで、「材料を無駄にしないのは、当たり前のことです」という姿勢。質実剛健とはこういうことでしょう。

最初の方で茶化したように書きましたが、以下の取材記事にある通り、パンダも真面目だったそうです。。。いや、真面目に遊んでた結果らしいです。。。どこまでも質実剛健なブランド、スコッチグレインです。

そして「モーモー」を見ていると、サステナブルって流行り廃りとか上っ面じゃなくて、もっと本質的なことなんじゃないかと思います。哲学に近いというか、信念として据えるかどうかを考えるべきというか。

これまでフリマサイトに文句ばっかり言ってますが、サステナブルという軸は素敵だと思います。資源は有限で、後世に残せるものが負の遺産だけでいいわけがないから、大事に使って循環出来るのならそれは素晴らしいことです。


さて今回も与太話をたくさん書いてきましたが、スコッチグレインは現代に残る「日本のモノづくりの良心」だと思います。

伝えたいことは
・散々悪口を書いてきたもののフリマサイトでしか出会えない出会いもある
・モーモー推し
です!

以上になります。
今回もありがとうございます!!

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