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貴志祐介『黒い家』読みました※ネタバレあり

 夏に『2万字のホラーを書くために』というnoteを投稿しましたが、あのホラー、ひっそりと頓挫していました。ひよっこには2万字のハードルは高く、私は自信を失い、以来一作も書けていません。落ち込み過ぎています。
 次の挑戦は来年の夏にくる。それまでに有名なホラー小説を読んでおこう!・・そうして手に取ったのが貴志祐介の『黒い家』です。感想をここに残します。ネタバレたくさんあるから、未読の方はご注意を。

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 とにかく畳みかけてくる。究極の人怖で、心霊現象は皆無ながら女郎蜘蛛(あの人を、ここではこう表記しようと思います)の怖さは心霊のそれに近いです。
 黒い家での対決が終わって、はぁ怖かったと一息ついたら、もう一回更に怖いのがくる。なるほど、この容赦なく畳みかけてくる展開、サスペンスだったら一回対決が済んだら終わるところを、ハッキリ決着が着くまでやるところがホラー小説なのか。「助かった、よかったよかった」では終わらないぞという執念を感じる・・。
 映像で見る「怖さ」は、姿が出てくるだけで怖い。効果音もつけて驚かせることもできる。対して小説で読む「怖さ」は状況、姿、心情を文字で読ませることで読者を逃げ場の無い恐怖に追い込む。この逃げ場の無さたるや・・・楽しみながら極度のストレスを感じたのは初めてです。小説って面白いな。

 特にストレスを感じたシーン。それは若槻が繰り返し見る夢のシーンですね・・。現在、読み終えて半月以上経ってしまいましたが、夢のシーンを読んでいる当時の私が残した日記を見てみましょう。スマホのメモに残っていました。
『若槻の悪夢にスプラトゥーンのCMみたいに乱入して、めちゃくちゃにしてやりたい。なにが女郎蜘蛛だ、なにが蜘蛛の巣だ知るか知るか、私がインク乱射してピンク色に染めてエリア確保してやる!そんな気持ち』
 とことん嫌になっているのがわかりますね。スプラトゥーンはやったことありません。本当にやったら若槻は更に混乱して眠れなくなるだろうし、女郎蜘蛛に目つけられて生きたまま首を落とされてしまう。そんな体験、たとえ夢の中でも絶対にしたくない。

 若槻の運命の分かれ目。それは女郎蜘蛛が直接若槻の家に襲来した夜、たまたま目を覚ましたシーン。目を覚まして、コンビニに行っていなければ若槻は簡単に殺されていたでしょう。
 目覚めについて、こう書かれています。

 なぜ急に目覚めたのかは、わからなかった。何かひどく嫌な夢を見ていたような気がするのだが、内容は思い出せない。

 この「何かひどく嫌な夢」、若槻の死んだお兄さんの夢ではないかと思うのは私だけでしょうか?
 若槻にとってお兄さんはトラウマなので「嫌な夢」というのも頷ける。お兄さんが夢に出て来て、若槻を起こしてくれたのではないか。他の夜は悪夢の内容が描写されるのに、ここだけ無いというのも、何か含みを感じやしませんか・・・。

 あの女郎蜘蛛を、単純に「サイコパス」と呼んでしまっては、この小説を読んだ意味が無くなってしまう。その人の性質がどこまで生まれつきで、どこからが生まれてから培われたものなのか、時折考えさせられます。きっと答えが出ないことが正解なのでしょう。もし誰かが研究して答えを明かしてしまったら、誰かが酷く傷つく。私はそう思います。

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