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大阪万博は失敗に終わる ― 2 愛知万博から学ぶと・・・

以下は2005年10月の記事です。約3700文字の長文ですが、「貴重な記録」としてお読みいただけば幸いです。ディズニーランドに関する記載内容も当時のものであり、現在は変わっていると考えられます。
 
 
愛知万博時の首相であった小泉首相が提言する「民間にできることは民間で」の正しさを実感する万博体験でした。
 
結論から言いますと愛知万博の計画と実行(運営)は、ともに最低の仕事の出来ばえであったと言えます。混雑した日に入場してしまった人のほとんどは同様な感想を抱いたことと思います。
 
「地球にやさしい」は良いのですが、来場する「ヒト」にはぜんぜんやさしくありませんでした。愛・地球博の「愛」を感じた人はどれだけいたのでしょうか。
 
テレビや新聞などの各メディアは、博覧会協会の「成功した」という発表に対し、何も疑わず、そのまま報道しています。困ったものです

そもそも成功したのか、必ずしもそうではなかったのかを「評価」するのは開催者側ではありません。
税金を払い、入場料を支払った国民が「評価」すべきことです。
 
2,000万人を超える入場者の中に、私のようにディズニーランドの運営と比較できる人間は何人もいないと思います。そこでこの税金を900億円も使ったお役所仕事に対し、民間の目から厳しく辛口な「評価」をさせていただきたいと思います。
 
第一話のテーマは「入場制限」です。
 
博覧会協会の公式ホームページから(記憶から)
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本日(9月18日)は、非常に多くのお客様が来場され、会場内が大変混雑しております。お客様の安全性と快適性を確保するため、12時50分より一時入場見合せ措置を開始いたします。
 今後、会場から退出されるお客様の人数に応じた御入場となり、御来場者には一時入場をお待ちいただくこととなりますので、あらかじめ御承知おきください。
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お客様の安全性と快適性の確保が入場制限の目的とのことですが、もともとの博覧会場の基本デザイン、つまり何人までの入場者が安全、快適に体験することができる施設を作ったのかが述べられていません。このことは後で述べさせていただきます。
 
 
なぜ入場制限をするのか
7月の混雑日の園内状況を見た協会関係者は、8月の終わりになってあわてたのでしょう。何の規制もせず、場内の滞留者を増やし続けると安全の確保さえできなくなると考えたものと思われます。混雑予測の根拠は、未着券(未使用)の入場券が330万枚も日本中に出回っており、9月の週末にはいわゆる駆け込み来場者が集中し大混雑することが容易に想定できたからです。
 
1970年の大阪万博の教訓もあります。大阪万博では、9月に入り駆け込み来場者が急増し、混雑はピークを迎えました。9月5日(土)には一時間に8万人、一日83万人の来場者で大混乱。橋の上は帰る客と入る客がバッティングし身動き取れない状況であったそうです。
 
現在と違い大阪万博時代の日本人は規律性が高く、各自が身勝手な行動をとらなかったため事故は起こりませんでした。
 
この大阪万博の教訓と、ディズニーランドなどのテーマパークでも入場制限をすることが一般化してきたこともあり、協会は8月24日に「滞留者17万人で入場制限実施」と発表したのだと推察します。
 
「17万人」の根拠は分かりませんが、滞留者17万人の場内は「すごい」ものでしょう。私が入場した日は滞留者数が15万人位であったと想像できます。
 
15時過ぎに案内所で滞留者数を聞いたところ11時のカウントしか教えてくれませんでした。協会の公式見解は「記録は無い、滞留者数は分からない」のだそうです。不思議です、ICチップが組み込まれた入場券を使用していたのですから。
 
ディズニーランドと比較すると数倍の「混雑感」を感じました。「混雑感」の根拠はこうです。
 
ディズニーランドのパスポート券は5500円、万博は4600円です。ディズニーランドではゲストからいただいているお金に見合った体験をしていただくことを第一に考えています。ですから一時間に一回はアトラクションを楽しんでいただけることができる滞留者数を考え、入園者数をコントロールしているのです。ゲスト一人あたりの平均滞留時間を8時間とすると、8時間で8回のアトラクション体験ができるということです。
 
愛知万博の体験は異なりました。5時間の滞在中、アトラクションと呼べる施設での体験はたった一回でした。長久手日本館に入場するためには2時間40分も待たなくてはならないし、人気のパビリオンの整理券も配布終了していました。最大8時間待ちのパビリオンもあったそうです。
 
一時間に一回の体験どころか、コンビニに入場するにも10分待ち、トイレにも列、パビリオン内を歩いて見るだけのエジプト館も30分待ちました。メキシコ館付属のレストランでも20分待ちを体験しました。体験したのは混雑感と疲労感であったと思います。
 
このように、ディズニーランドと万博協会では「支払って頂いた料金に見合った体験の提供」という観点で見た場合、考え方がまったく違うことがよく分かります。ディズニーランドの入場制限には思想と根拠があります。愛知万博の17万人という滞留者数は安全性と快適性を両立できる根拠のある数字であるのでしょうか。私には到底そうは思えないのです。
 
 
安全性はともかく快適性は全く感じないほどの「混雑感」を体験したからです。
 
まだまだ続きます。
そもそも入場制限とは何をどうすることでしょう。
万博協会は「一時入場見合わせ措置」と表現しています。4つの入場口の前に列を作り退出者数分だけ入場させるという方法をとるそうです。
 
ディズニーランドの入場制限との決定的な違いは「入園できる権利を持っている人をどうするか」です。ディズニーランドの入場制限は当日券の発売を一時的に見合わせることです。期日指定券やフリー期日券を持っている、つまり入場する権利を事前に購入しているゲストは入場制限中でも入園可能です。
 
愛知万博は違います。特別な入場券を除き全ての来場者が対象になります。愛知万博の入場券の裏側には「入場制限中はお待ちいただく」とも書いてありません。つまり本来なら入場する権利のある人を全て制限してしまうのです。入場可能な入場券を持った外国からのお客様や、渋滞で到着が遅れてしまった団体旅行参加者までもが入場制限対象者になってしまうのです。
 
万博協会の「一時入場見合わせ措置」は一見リーズナブルに思えますが、実は一番「楽」な仕事の仕方なのです。
 
すべてのゲストがVIP(とても大切な人)と考え、あえて入場制限をするディズニーランドと万博協会との哲学の違いに皆さんはきっと気付かれたことでしょう。
 
前述した「来場者に満足いただける博覧会場の基本デザイン、入場者が安全、快適に体験することができる施設とは」という問題ですが、官の考え方でこの問題を解決するには無理があります。
 
愛知万博全体を管轄する経済産業省のミッション(使命)は、この国の経済活力の向上です。出展企業や地元愛知県への経済的メリットも必要です。
 
そもそも国際博覧会はあるテーマの啓蒙が目的で開催されるものですが、オリンピックというイベントの商業化も当たり前になってきた現在、博覧会というイベントも商業化されて当然でしょう。そうすべきであると私は考えます。
 
この意味において、博覧会場の基本デザインの策定はかなり難しいテーマです。
 
小中学生の校外学習の場でもあり、家族旅行の行き先であり、団体旅行の観光地でもある博覧会会場は、安全性は必要ですが快適性をあまり求めないほうが賢明であると私は考えます。
 
運営する万博協会も来場者の「快適性」を求める必要性はありません。なぜならば、博覧会は半年で終わりであり、あらかじめ設定した目標入場者数に達すれば成功したと宣言できます。
安全性さえ確保すれば、快適でなかったという声に対しても「次はこのようなことば無いようにします」と謝罪すれば、なんのペナルティーも受けずにすむことを知っているからです。
 
皆さんは以下のレポート、入場制限翌日の愛知万博の公式ホームページの「万博トピックス(記憶から)」を読んで何を感じますか?
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大混雑は、遠方から駆けつけた来場者を直撃。北ゲート付近で座り込んだ大阪の20代の女性3人組は「3人の休みの都合で、今日初めて来ました。入場制限前にぎりぎり入れたものの、ゲートで1時間半も待ち、もう疲れました」とぐったり。横浜から家族で初来場の○○美奈子さん(38)は「北ゲートで、入場制限にひっかかりました。案内はありましたが、遠方から初めて来た私たちには分かりづらかったです」と不満げ。岡山から友達と夜行バスで来た○○美友〇さん(17)は「パビリオンは全く見ず、お昼を食べて、お土産を買ったら時間がきてしまいました」と残念そうでした。
万博トピックス一覧 | EXPO 2005 AICHI,JAPAN
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まるで他人事のようです。この責任は主催者側にはありませんと考える全く無責任な態度です。小泉首相はどのように思うのでしょうか。
 
国際博覧会という性格上、税金を投入しないと会場の建設も運営もできません。国が準主催でないと外国からの出展もおぼつかないでしょう。しかしながら今回の万国博覧会の計画、運営はひどすぎます。役人天国のシンボルのような巨大イベントが、二度と日本で行われないようただ祈るばかりです。

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