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『青天を衝け』第4回「栄一、怒る」(2021年3月7日放送 NHK BSP18:00-18:45 総合20:00-20:45)

栄一(吉沢 亮)は仕事にますます励み、もっとよい藍を作るにはどうしたらよいかと思い巡らせていたが、ある妙案を思いつく。一方、幕府はペリー(モーリー・ロバートソン)の再来航が迫り混乱していた。斉昭(竹中直人)は、次期将軍候補である息子・慶喜(草彅 剛)に優秀な家臣を付けようと、変わり者の平岡円四郎(堤 真一)を小姓に据える。そしてついに、日米和親条約が締結。開港のうわさは血洗島にも届き、惇忠(田辺誠一)たちはがく然とする。そんな中、父・市郎右衛門(小林 薫)の名代として、多額の御用金を申し渡された栄一は、その理不尽さに、この世は何かがおかしいと感じ始める。

上記引用はNHK大河ドラマの公式サイトから第4回予告の文章。画像は東京小石川後楽園(昔の水戸藩邸。岡山の「後楽園」と区別するために「小石川後楽園」と呼ばれている)。最後の「紀行」でも紹介されていたが、慶喜もここで生まれた。

今回は、タイトルバック前「のちに近代日本経済の父と呼ばれる渋沢栄一……」というナレーションから始まり、前回最後の藍の買い付けシーンを振り返る。しかし、実は「近代日本経済の父」という言い方はあまりピンと来ない。「日本資本主義の父」のほうがなじみ深い。なぜNHKは大河で「近代日本経済」という言葉を使っているのか……。この「謎」についてはまたいずれ考えてみたい(とはいえ、2021年2月20日BSPで放映の『渋沢栄一 in パリ万博』では「日本資本主義の父」が用いられていた)。

さて、前回シーンの振り返り後、栄一は浜田弥兵衛の本(黄表紙)を惇忠から紹介される。前々回は山田長政の本を読んでいたが、栄一は冒険活劇的な本がとても好きなようだ。二人とも江戸時代の初期に海外で活躍した人。栄一は「どうしてこの日の本は国を閉ざしているんかな」との疑問を惇忠にぶつける。惇忠は水戸の本にもあるように日本は古来からの日本人の心を失ってはならないのだと説く。惇忠はこの時点ですでにはっきりと攘夷論者だが、栄一は惇忠の意見に賛同しつつも海外で外国人相手に堂々と商売する夢を見るのだった。

栄一の商売の工夫は、まずは血洗島の百姓たちに良品生産のインセンティブを与えるというところから始まる。深谷の渋沢栄一記念館にも展示されている「藍の生産番付表」の作成がそれである。一歩間違えれば逆に百姓たちの反発を買いかねないこの試み、ドラマではハラハラさせながらも、いつも上座に座っていた角兵衛さん(渡辺哲)が、やる気を出してくれたことでうまくいったようだ。(大学で教員評価を相撲の番付方式でやると言ったら、総スカンを食うこと間違いないだろう・w)

シーンは前後するが、平岡円四郎が慶喜と初対面する場面。慶喜は円四郎に「そなたに諍臣(そうしん)になって欲しいのだ」と言い、円四郎が「“諍臣は必かならずその漸を諫む”の諍臣ですか」と返す。これは唐の太宗(李世民)の言葉を集めて唐代に編纂され、周辺各国にも伝わったとされる『貞観政要』のなかの言葉。このあとに「其満盈に及ては、復諌むる所無し」と続く。要するにダメなところがあったら、早めに諫めよ、そうしないと手遅れになる、という意味。なかなか素晴らしい言葉であり、慶喜も円四郎もかなりの教養人であることがうかがえる。言っては何だが、黄表紙を読んでワクワクしている百姓とはレベルが違うのだ。

その教養ある円四郎、年齢は慶喜の一回り以上も上(当時、数えで32歳。慶喜は17歳)であるが、飯を上品によそうこともできない。片や教養ある一橋慶喜は、幕末の四賢侯の一人、松平春嶽(要潤)にも「いっそあのようなお方が将軍になれば、喜んでこの身を捧げるのだがのぉ」と言わせるほどだが、母親・吉子(原日出子)の前では「年相応」なのが笑える。橋本左内(小池徹平)が風呂場で春嶽侯の身体を洗っているシーンで初登場なのには驚いたが、それだけ春嶽に期待され、可愛がられていたということが一目でわかる。これぞ映像演出というものであろう。

一方、商売よりも剣術が好きな喜作(高良健吾)は千代(橋本愛)に片思いらしい。その二人の会話シーン。千代の前では商売に励むことを誓い、「だから、だから……待ってろよ」と。しかし、時代はそんなのんびりした状況が続くことを許してはくれなかった。1854(嘉永7)年、ペリーが再び来航し、その砲艦外交の前に井伊直弼(岸谷五朗)らも開国やむなしと主張するなかで、老中首座・阿部正弘は開国を決意。日米和親条約が締結されるのであった。

尾高家の惇忠や長七郎が攘夷の具体的行動(?)を謀議をしつつあるなか、栄一は岡部陣屋に出向き、お代官様の御用を父・市郎右衛門の名代として聞いてくることに。その岡部陣屋での理不尽な仕打ちに栄一が怒るという見せ場が続く。ここはやはり悪役がどれだけ憎々しげな演技ができるかどうかだが、岡部藩代官・利根吉春(酒向芳)がニンである。これまでの3回すべてに登場し、その悪役ぶりを発揮してきているが、今回はそのクライマックス。栄一は500両もの大金を御用金として上納することを即座には承服せず、代官・利根は「下郎め、承知と言え」と栄一を罵倒する。納得のできない栄一は家に帰ってから父に岡部藩の仕打ちには道理がないことを切々と訴える。この長台詞のシーンは名場面であった。しかし、栄一は父の言にしたがい、黙々と御用金を一文銭混じりで準備する。その小さな銭が百姓の努力の結晶であることを思いながら。

しかし、そもそも利根はどうしてそのような大金の上納を強制しようとしたのか。栄一もそれを尋ねようとしない。これは想像だが、岡部藩も高島秋帆のアドバイスなどもあって藩の軍事面での近代化を図っていたのではないか。利根も日本が危急存亡の時であり「我が藩も幕府のお役に立たなければならんのだ」くらい言えば、栄一を納得させることはできたであろうに……。

次回は3月14日放映予定。3月11日の東日本大震災10年に合わせてきたわけではないだろうが、安政の大地震で「栄一、揺れる」。


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