見出し画像

『青天を衝け』第33回「論語と算盤」(2021年10月31日放送 NHK BSP 18:00-18:45 総合19:15-20:00)

今回は衆院選挙開票速報のため地上波では時間を繰り上げての放送。回も進んで第33回。最終回(第41回)まで今回を含んであと10回を切ってきた。栄一(吉沢亮)が1931(昭和6)年11月11日に91歳で没するまで現在進行中のドラマ時間(1877年前後)ではあと54年間あるわけだが、その54年間をたった9回で描くのだから途中を端折るにしてもどのエピソードをじっくりと描くのかが脚本家・大森美香の腕の見せ所となろう。

今回冒頭、小野組放漫経営に起因する第一国立銀行破綻危機の中で小野組番頭の古河市兵衛(小須田康人)が「渋沢様のためならば」と小野組資産を差し出すところなどは、その前後を含めて重要なエピソードではあるが、小野善右衛門(小倉久寛)が「嫌や、嫌や〜」で駄々をこねるシーンでまとめていた。また喜作(高良健吾)も小野組に就職していたのだが、この破綻で退社して栄一の援助で横浜に渋沢商会を起ち上げるのだが、そんなところも中略。

そうした中、三井組番頭の三野村利左衛門(イッセー尾形)は小野が所有していた第一国立銀行株を譲り渡すように栄一に迫る。その書状を総監役の栄一に渡すのが、前回も登場した佐々木勇之助(長村航希)。三井の横暴な態度に怒った栄一は、合本銀行は「力を合わせ淀みない大河の流れを作るのが目的」であり、三井の目指す単独資本の銀行とは違うと三野村に啖呵を切り、大蔵省に第一と三井のどちらが銀行のあり方として正しいかを調べてもらうと銀行検査を要請。委託されたアラン・シャンド(リカルド・バルツァリ)による本邦初の近代的銀行検査の結果、逆に三井への大口融資が銀行経営にとって癌になっていることが指摘され、大蔵卿の大隈重信(大倉孝二)は三井への特権剥奪を指示、第一国立銀行の経営から三井を排除して、栄一を頭取に据えた。シャンドは栄一にまだ赤子同然の第一国立銀行を大事に育てなさいとアドヴァイスするのであった。

大隈邸では大隈重信と三菱商会会頭の岩崎弥太郎(中村芝翫)が会談。「すべては大隈様の筋書き通りでは」と。一方、大阪の五代邸では碁を打ちながら五代友厚(ディーン・フジオカ)と大久保利通(石丸幹二)が話をしている。弱みを見せないから「(一蔵さぁは)いっちょん人望がなか」と五代。

仕事が一段落した栄一は久しぶりに静岡の御前様(草彅剛)を訪ねる。すっかり貧乏になってしまったと愚痴る猪飼勝三郎(遠山俊也)。そこに西洋式ハンティングスタイルの御前様登場。そう言えば、栄一と慶喜の最初の出会いも鷹狩りのときであった。さて御前様の前で栄一がこぼす明治新政府の面々に対する評価(三条実美は自分の意見がないとか大久保は何を考えているかわからないとか)は自伝の中にもある話。何でもない台詞に色々と入れ込んでくる脚本が実に上手い。

前回静岡に訪ねて来たやす(木村佳乃)のエピソードは中途で切れていたが、ここで美賀子(川栄李奈)が栄一に語るという形でやすが何を言いに来ていたのかを出してきた。やすは「こんな世にするために皆死んでいったわけではない」と慶喜を批判するが、美賀子は「英明な君主であらねばならなかった頃よりも今の方が幸せであって欲しい」と栄一に言うのであった。

自宅に帰って『論語』を音読する栄一。「里仁篇」の「君子は食を終うる間も仁に違うことなし 造次にも必ず是 に於いてし、顛沛にも必ず是に於いてす」と。造次顛沛は、とっさの場合とつまずいて倒れる場合の意味で、わずかな時間のたとえである。「論語でございますか」と言う千代(橋本愛)にフランスでおこなわれている慈善会(チャリティー活動)の話をし、東京府にできた養育院を預かろうと思うと栄一。まさに造次顛沛においても仁をなすべしである。

その頃、日本経済は輸入超過による正貨流出に苦しんでいた。第一国立銀行にやってきた喜作の話によれば外国人商人たちが蚕卵紙の買い控えをおこない、日本の種屋(蚕卵紙を扱う業者)が次々と破綻しているという。政府内部でもこれを問題視するが、妙策がない。伊藤博文(山崎育三郎)、大久保利通、大隈重信が鳩首会談しているが、政府介入は条約上もまずく「あくまでも民が解決せにゃならん」と伊藤。大久保は栄一に頭を下げ「味方になってくれんか」と頼む。栄一は政府の蚕卵紙売り上げの蓄えを用いて蚕卵紙を買い上げ、それを焼却するという方法で価格維持を図ると渋沢商会に集まった面々に告げる。さらにその事を新聞紙上に掲載して外商との交渉に使おうという作戦である。『東京日日新聞』(1)の福地源一郎(犬飼貴丈)、『郵便報知新聞』の栗本鋤雲(池内万作)がその意見広告を掲載するというと喜作は「十年越しの焼き討ちだ」と気勢を上げるのであった。尾高惇忠(田辺誠一)、喜作、栄一の3人が蚕卵紙に火を付けるシーンは感動的。

1876(明治9)年正月。渋沢の娘たちへの土産の羽子板をもって三野村が渋沢邸を訪ねてくる。三野村が先の勘定奉行小栗忠順(武田真治)の奉公人から見いだされて三井との縁が出来たのだと千代。栄一は「人は一面じゃねぇのぉ」と。その夜、牛鍋を囲む栄一、五代、喜作、福地、そして初登場の三井物産会社総轄の益田孝(安井順平)。別間で千代に「奥様は本当に目利きです」と三野村。三野村に銀行開業の祝いを述べる栄一に三野村は「怖いのはあまりに金中心の世の中になってきたということですよ」と言う(銀行の窓口で差し出される明治通宝や国立銀行紙幣、明治一分銀のカットが挿入)。

ラスト。三野村、西郷(博多華丸)はナレ死。さらに郵便汽船三菱会社で「戦争は何と多くの金が動くものか」と言う弥太郎のもとに大久保卿暗殺の報が岩崎弥之助(忍成修吾)によってもたらされる。碁盤の前に一蔵さぁを思う五代。守本奈美アナウンサーのナレーションで「日本は新しい時代に向けて歩み始めました」。そして、三野村の「さてどんな世になりますかね」で続く。

注)
(1)『東京日日新聞』はのちに本山彦一の『大阪毎日新聞』に買収され、大毎の関東進出の足がかりとなる。現在の『毎日新聞』。大森美香は牛鍋を囲むシーンで福地に「自ら戦地に赴き記事を書こう」と言わせているが、実際、西南戦争に従軍して田原坂の激戦などの記事を書き、評判を取った。ジャーナリズムの発展にとっても戦争は大きな転機となった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?