『鎌倉殿の13人』第32回「災いの種」(2022年8月21日放送 NHK BSP 18:00-18:45 総合20:00-20:45)

比企能員暗殺、小御所合戦で比企氏排除に成功した北条一族。次の邪魔者は二代目「鎌倉殿」であり、征夷大将軍の頼家。政子の長男である。義時は冷徹に「頼家様が息を吹き返す前に戻す」と一門の前で宣言する。たとえ頼朝の長男であっても自分たちに都合が悪ければ徹底的に排除して、北条が目指す理想を実現しようというわけである。頼家、および頼家派排除を主導したのが、時政の命を受けた義時であったというのが、山本みなみ氏の指摘(『史伝北条義時』小学館、2021)である。山本みなみ氏は前回のドラマで描かれていた一幡、千幡の分割統治案を比企が拒絶したという話は『吾妻鏡』による曲筆であり、実態は時政によるクーデターであるとしている。慈円(九条兼実の弟)の『愚管抄』の記述が正しいということ。その慈円も今回登場していた。(2020.8.22.18:15追記:書き忘れていたが、慈円が後鳥羽上皇に対して、鎌倉将軍を失われた三種の神器のひとつ、草薙の剣に見立ててはどうかとアドヴァイスするシーンがあった。後鳥羽上皇は三種の神器なしに即位したコンプレックスがあったので、慈円の言葉に納得しつつもイラッとして積んでいた双六のコマを崩したのだと思ったが、どうであろうか。

さて、病気から回復した頼家。いつの間にやら出家させられ、せつや一幡、舅殿(比企能員)が見当たらない。時房は皆、流行り病で……という苦しい言い訳をしていたが、それに納得するほど馬鹿ではない頼家は、和田義盛や仁田忠常に北条を討てと命じる。義盛は北条に相談しにいくが、忠常は悩んだ末自害してしまう。切ない場面であった。切ないといえば、比企から義時のもとに嫁いだ比奈(姫の前)との別れのシーンも切なかった。

今回の一番の見所は、前回殺されたと見えた一幡が実は善児の小屋に匿われていて……という場面。それを知った義時は一幡を葬るため、自ら善児のところに向かう。しかし、善児は一幡を殺せない。「千鶴丸の時と何が違う」という義時に対して「わしを好いてくれている」と返答する善児。今までずっと冷徹に命令を実行してきた善児も年老いて一幡に情が移ってしまったということか……。察したトウが代わりに一幡を「水遊びをいたしましょう」と連れて行く。もはや一幡は帰って来ないことを覚った善児は、自らがこしらえた鞦韆の縄を切る。

鎌倉では千幡の元服、征夷大将軍就任の話がどんどん進められ、時政が実権を握るいわゆる「執権体制」が整えられていく。修善寺に流された頼家は、そこで……というのは次回のお話。

最後に比企一族が滅亡した小御所合戦で死んだと思われた比企尼が生きていて善哉(のちの公暁、ドラマでは“こうぎょう”で呼ぶらしい)に「北条を決して許してはなりませんぞ」と吹き込むシーンは怖かった。

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