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『鎌倉殿の13人』を復習する(1)

『鎌倉殿の13人』で義時の父・時政はその妻・りくとともに異彩を放っていた。その時政に関するミネルヴァ書房の評伝シリーズの1冊である野口実著『北条時政:頼朝の妻の父、近日の珍物か』を紹介しておこう。

同書は、鎌倉幕府初代執権の北条時政に関する評伝。帯の惹句にある「緻密な史料批判・最新研究の成果……「老獪な政治家」の実像に迫る」を裏切らない。しかし、さすがに史料が少なく総ページ数も212ページ。あっという間に読了。

序章では従来の北条時政のイメージについて。いわゆる先行研究批判。それを踏まえて本書の課題とすべき点が6点挙げられていて、わかりやすい。

第1章は上記課題のうち①「出自・系譜=ステイタス」②「国衙との関係やその近傍に位置する伊豆北条の空間の特性」が主として取り上げられている。一言で言えば、近年強調される武士の都市的な側面を典型的に体現しているのが北条氏であるということ。北条氏のステイタスは幕府成立以前からの在地における存在形態に起因していたと見ることができる。要するに、頼朝の外戚という地位は北条氏権力確立の一要因にすぎない(p.37)。また時政の弟の時定の在京活動も重要なポイントである。

第2章「流人頼朝を囲繞した人たち」ではとくに擬制的な親族関係(烏帽子親や乳母)の重要性が強調されている(p.59)。第3章「時政の周辺」でふたたび時定の在京活動に触れられたあと、妻の家牧(大岡)氏について詳細に述べられている(課題③)。牧氏本拠の空間は交通・流通の拠点として京都文化を受容しうる場であり、伊豆北条と多くの共通性を有する空間であった(p.74)。また牧宗親は時親に置き換えられるべきで、宗親は挙兵前に死去していた可能性が高いと著者は推測する。

第4章「時政と京都権門」ではp.98に簡潔にまとめられているように時政が京都・中央政界に広く人的ネットワークを有しており、貴族社会に一定のステイタスを確保していたことが、鎌倉政権内部で他の御家人から一頭地を抜く存在たり得た要因であった(課題⑤⑥)。

第5〜7章までは治承・寿永の乱という戦時下、頼朝死後の権力闘争、そして時政・牧の方の失脚と一挙に読ませるパートだが、とくに第7章の時政・牧の方失脚は北条氏による政治劇として解釈され、非常に面白かった(課題⑥)。また女性の役割についての著者独自の見解も傾聴に値すると思われる。

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