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古民家民泊のはずなのに漁船に乗せられた

まさか船に乗せられるとは思ってなかった。

三陸鉄道北リアス線に乗って、約束の時間に綾里駅についた。
迎えに来てくれた友人アベチャンは、にこにこして、
「じゃあ行きましょう!」
と、クルマを動かした。

着いた先は、漁港だった。
「わかめ、採りにいきます」
上下のかっぱを渡され、ビニールの手袋も貸してくれた。

南三陸の古民家に取材にいくというはずだった。
なのになんで、海でわかめなのか。

そんな話、まったく聞いてなかったが、
断ることもできそうにないので、素直にアベチャンに従って、漁船に乗った。

リンゴや大根やいろんな作物に間引きが有効なように、
海で育てているわかめも間引きが必要で、
そうやって間引いたわかめは昔は捨てていたが、
いまでは「早採りわかめ」とか「生わかめ」といって、
東北では旬の食べ物になっている。

ふだん食べているわかめだって生のわかめじゃないか、
とわたしは思っていた。
「ふえるわかめ」みたいにカチカチのわかめとはちがって、
乾燥していないわかめだから。
しかしわたしが知っているそんな「生」のわかめは、
一度ボイルして塩漬けにしているわかめで、
「塩蔵ワカメ」というものらしい。

塩蔵ワカメと生わかめの違いは、お湯にくぐらせたときにわかる。
塩蔵ワカメはお湯に入れても真っ黒いままだが、
生わかめはお湯に入れた瞬間に、きれいな緑色になる。
それはそれは、劇的な瞬間である。
土鍋に張った透明なお湯に、
黒っぽいわかめを箸でつまんでさささと入れると、
箸の先のわかめが、ぱーっと緑色に変わる。
2月に間引きが行われるため、
この時期にしか生わかめは食べられない。

漁師ジュンさんにいわせると、
「なにがイヤかって、わかめの間引きぐらいイヤなものはない」
と。
それはそれは辛い作業だ、と。

2月は寒い。陸でも寒いが海の上はもっと寒い。
海の中から引き上げたわかめの束から、
育ちの悪そうなものを選んで、カッターナイフでぴぴぴと切っていく。
黙々と切っていく。
黙々と切っていく。
黙々と。
誰もしゃべらない。寒いから。
鼻水が出てくる。
鼻水が。
やがて放っておくようになる。
かんでも拭いてもでてくるから。
すると、鼻水が凍ってつららになる。
(とスゴイなと思うけど、そこまでは経験したことがない)
しかも、小さな船だと、波に上下にゆすられて、
「鼻水どころじゃない」(ジュンさん)

わかめのホントの収穫は3月4月だから、
「汗かくぐらいだから」(ジュンさん)
みんな陽気に作業する、と。

生わかめはうまい、漁師は大変。

でもなんでわたしが間引き作業なのか。
「ちょっと仕事でミスって……」(アベチャン)

アベチャンは、漁協のオンラインショップを担当してるのだった。