まだ僕は立ち直りきっていない。

母は心が弱い人だった。僕が結婚が同棲か、とにかく実家を出て他所で暮らし始めた折は、しばらく精神的不安に陥り、飛び込みで何軒も心療内科をはしごしたのを覚えている。

意味もなく泣き出したり喚いたり、そんなことがしばらく続いた。僕のちょっとした反抗心で、同棲も結婚も大した相談もなく進めたというのも、その一因だったのかもしれない。

僕はそのことを少しばかり後悔した。

それから十年だ、母が死んだのは。
父が仕事でいないときに実家へかえると、一人でぽつんとタバコを吸いながらニュースを見て、薬の影響でいつもウトウトしていた。頭がぼんやりするのか、僕の姿が見えてもとても反応が薄かった。
ひどい眠気と腰痛でいつも横になり、左向きに横になってニュースを見ているのを鮮明に思い出せる。18時台でニュースを見て、19-21時までバラエティを見て、21時台でNHKのニュースを見て、22時頃に自室のベットに入り眠った。

いつもすんなり眠りに入れたわけではない。精神的に高ぶるといつまでも寝れず、ストレスで更に眠れなくなっていた。

そう思うと、母は最後、一番に安らかな眠りをできたのではないかと思うときもある。もちろん死んだという事実は変えられないし、悲しい以外に感想はない。
でも、眠りの中で死に気づかずに死ねたのは、ある種の幸せかもしれない。

今は母が死んでから三週間後だが、未だにこうやって母のことを文章に吐き出す作業をしながら泣いてしまう。日にち薬とはいってもやはり悲しいのだ。

ここ最近、不思議なことがある。
線香の匂いを感じるときがある。それは線香がないところだ。嫁も職場でその匂いを嗅いでいる。
先日の休日、嫁と出かけるために車に乗ろうとしたとき、線香の匂いを感じた。
そして普段、食事で入ろうとは言わないようなところに嫁が入ろうと言い、入った食堂で十年前に喧嘩別れした友人の母親と再開した。
家族ぐるみでの付き合いがあった方なのだが、だいぶ前からあっておらず、僕は母の訃報を伝えた。

その夜、その方から実家に留守番が入っており父がそれに電話をかけ、僕はその喧嘩別れした友人と久しぶりに話ができ、電話番号も交換できた。
僕は不思議な体験だと思った。
母が「仲直りしなさい」と、そばにいたのだろうか、と思ったのだ。

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