村星春海

破滅派。 暇を見つけながらインプットとアウトプットを繰り返し、小説執筆中。 「悲しい鹿…

村星春海

破滅派。 暇を見つけながらインプットとアウトプットを繰り返し、小説執筆中。 「悲しい鹿」連載終了。

マガジン

  • 悲しい鹿

    同性愛者としての自分を自覚しながらも、それを想い人「綾香」に伝えられない「私」。 それでも勇気を出して一歩進んだ矢先、彼女は忽然と姿を消してしまう。 存在意義を失う「私」は、同じく性的に不安定な「先輩」と共に夏季休暇で地元へ帰る。 私はまるで崖っぷちの「悲しい鹿」の様だった。

  • 村星春海さんってなに?

    僕こと、村星春海のことを書いてみました。 興味ないかもしれませんが、よかったら見てやってください。

最近の記事

雨は僕の。

 古いアパートの一室。色の褪せた畳の上で、僕は一人、短パンとTシャツといった格好で、昼の十二時というある種目処のたった時間を過ごしていた。趣味の物書きをしていた僕は、漂白剤の匂いが漂ってきそうなほどに白い画面の上でパラパラと羅列されたコンピュータの無機質な文字を、梅雨特有の重い湿り気をもった薄暗い部屋の中で読んでいた。  そうしていたとき、鼻腔にすこし懐かしい匂いを感じたのだ。  この匂いは……。と考えていた。すこし考えたあと、ピリッと脳裏に浮かんだ。あぁ、これは幼い頃に、物

    • 防波堤のコンクリの砂

      「もし私が、こう生きられてたならね……。」  あの子がそう言ってから何年経ったのかというのは、もはやいちいち言うことでもないし考えることでもないのかもしれないけれど、自分がいざそういったという事を考え出すと否が応でも言いたくなるし思い出してしまう。  虚ろで緩やかな川の流れのような時間の中で私はそうやってあの子の事を思い出すのだ。それが不毛なのはわかってるし無駄なのも分かっているが、なかなかそうもいかないのだ。 ───  風は次第に冷たさを深め、夏が終わりを告げた事を暗

      • DROP

        ________ 雨が降る中、『僕』はある喫茶店で不思議な女と出会う。 彼女の謎の質問で、『僕』は次第に引き込まれていってしまう。 ___________ ____________________________________________  夏の雨が、急に夕方の強く焼けたアスファルトを叩いた。最初はパチパチと控えめに降っていた雨も、次第に無遠慮となって滝の様に降り出した。その時、ちょうど食料品を買

        • 夜明【最終話】

           多くの事が私の青春時代に押し寄せていたのを思い出す。初恋が同性の人。後に好きになった人も同性で。そしてその人は行方不明になり、結局私を置いて逝ってしまった。でも、私は寄り掛かれる人がいたから、それでも幸せに再び立ち上がることができた。このまま倒れたままでいたかもしれないのだ。そう考えると、私の青春時代は、ある意味で「人生とは価値あるもの」として認識させてもらういい時代だったのかもしれない。  その後、私は大学を無事に卒業して地元に戻った。東京にいてもいいのかなとは思ったのだ

        雨は僕の。

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        • 悲しい鹿
          21本
        • 村星春海さんってなに?
          5本

        記事

          悲しみに勝つ祈り【第十九話】

           いつしか人は立ち直るときが来るのだろうか。色々なことで人は立ち止まるけど、その度になんとか立ち上がり再び歩き出そうとする。またどこかで立ち止まるかもしれないが、それでもまた立ち上がるのだ。人間はそうしてしつこく止まって歩いてを繰り返す。  その時に、誰かが側にいるというのはとても心強いもので、杖の役割をしてくれるのだ。止まろうとしたら声をかけ、止まったら背中を押してくれる。そんな存在を誰しもが探し求める。というよりも、そういう存在を探すために歩き続けていると言ってもいいのか

          悲しみに勝つ祈り【第十九話】

          雨降りの東京。夕陽は未だ差さず【第十八話】

          ☆ 2016年 12月7日 東京 ☆  秋も過ぎ、忍び寄る殺意のように本格的な冬が迫っている。暖冬で雪が降らないのだが、カレンダーは容赦なく十二月だったし、誰がなんと言おうとそうなのだろう。私は今月が実は十一月なんだとか五月なんだとか思うのはいつの日かやめた。思うと思わずに関わらず、時は前にしか進まないからだ。  私にはとにかく思案する時間があり、心の休養を落ち着ける時間もあった。ゆっくりと流れる時間の中を、私はたまに思い出したように落ちる鍾乳洞の水滴の如く、じっくり

          雨降りの東京。夕陽は未だ差さず【第十八話】

          彼方の彼女はわたしの夢で涙を流す【第十七話】

          ☆ 2016年 11月8日 東京 ☆  夏に綾香と再会し、そして東京に戻った2ヶ月前から、私はいつにも増して彼女の夢を見るようになった。  夢の中ではいつも私の為に綾香は涙を流し嗚咽を漏らし、私はその姿を追い求めて真っ暗で人一人いない地元の街中を果てしなく駆け回る。いつも姿は見えないし、声の出どころを見つけることすらできない。  次第に街は闇が濃くなり、その闇の中に取り込まれてしまうんじゃないかと不安になり、やっとの事でプールの縁を掴んで上がり大きく息を吸うようにして

          彼方の彼女はわたしの夢で涙を流す【第十七話】

          帰省のおわり【第十六話】

          ☆ 2016年 9月2日 地元〜東京 ☆  8月も過ぎ、ゆっくりとした秋の足音が聞こえてくるのは私だけではなかろう。流石に紅葉や落ち葉がという季節ではないが、8月が終わったという既成事実そのものが、秋の薄ら寂しい気分を演出しているのだ。  私も今日、実家をあとにして東京へ帰る。先輩は半月程の滞在期間でしっかりと私の両親に気に入られ、このままでは本当に私の婿となりかねない様相を呈し、私は毎日を恐怖しながら実家泊まりを体験した。  父は先輩を息子の様に可愛がり、一緒になっ

          帰省のおわり【第十六話】

          まだ僕は立ち直りきっていない。

          母は心が弱い人だった。僕が結婚が同棲か、とにかく実家を出て他所で暮らし始めた折は、しばらく精神的不安に陥り、飛び込みで何軒も心療内科をはしごしたのを覚えている。 意味もなく泣き出したり喚いたり、そんなことがしばらく続いた。僕のちょっとした反抗心で、同棲も結婚も大した相談もなく進めたというのも、その一因だったのかもしれない。 僕はそのことを少しばかり後悔した。 それから十年だ、母が死んだのは。 父が仕事でいないときに実家へかえると、一人でぽつんとタバコを吸いながらニュース

          まだ僕は立ち直りきっていない。

          日常と非日常の堺

          地球はいつも同じように同じようなスピードで回り続け、その動きは不変でなのだと思っていた。 実際同じような場所から太陽は昇るし星の位置も変わらないのだから平均寿命八十歳の日本人にとっては、毎日の風景の動きは不変なのだ。僕は実際にそう思っていたし、これからもそうだと思ってはいた。 でもそれは急に訪れて、僕の約三十年間の日常を変えてしまった。 母が死んだ。眠ったまま死んだのだ。太陽も昇りきらない時間に父は、母が入院先の赤十字病院で死んだと混乱しながら電話をしてきた。僕と嫁は急

          日常と非日常の堺

          分水嶺【第十五話】

          ☆ 2016年 8月21日 ☆ 「私がエイズに気づいたのは、たしか小学校の3年生の頃だったかしら。原因は母子感染だった。薬害エイズ事件って知ってる?80年代の終わりにあった、血友病の治療に使われる非加熱製剤による感染事件なんだけど、母さんが血友病でね。それでエイズに感染したの。今では血友病の治療には加熱製剤が使われてるから心配はないけれど、昔はエイズそのものの認知度が低かったのかもね。私も危ないんじゃないかって調べたらしっかり感染していたわ。それ以来、エイズ治療拠点病院

          分水嶺【第十五話】

          告白と真実【第十四話】

          ☆ 2016年 8月20日 実家 ☆  お盆も過ぎ、いよいよ手の空いた夏季休暇となっていく。家族がお盆で13日から14日の家を開ける間だけ、先輩は駅前のホテルに戻り、私達が帰宅するのに合わせて先輩も戻ってきた。  気を使わせると言ってホテル泊に戻ると言っていた先輩だが、両親が彼を気に入ってしまい、無理矢理にでも家へ連れ帰ってしまった。息子が欲しかった父は特に彼を気に入り、毎晩、晩酌に付き合わせていた。私が申し訳なく先輩に言うと、彼は彼で父親との思い出があまりなく、父と

          告白と真実【第十四話】

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          amazonKindleにて、電子書籍を販売しております。 短編集「残照」 2つのショートショートと2つの短編からなる短編集です。 短編集「残照」 250円 https://www.amazon.co.jp/dp/B07S8V9BXW/ref=cm_sw_r_other_apa_i_d-p8Cb3A8N9SQ 名刺代わりの僕の処女作となります。 まずこちらからよろしければ、僕の作品に触れていただければとも思います。 「世界の果て、夜明け前」 99円 https://www

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          残された手紙【第十三話】

          ☆ 2016年 8月12日 実家 ☆ 『誰も知りえない井戸の底の様な場所に、いつも私はいた。 いきなりこんな話から始めてごめんなさい。でもこれはナチス・ドイツのホロコーストの様に変えられない事実であり、まずあなたに知っておいて欲しい事だから。 逃れようのない事実というものはとても冷酷になれるもので、忍び寄る足音は耳の中で大工仕事をしているのではないかと思う程にいつも鳴り響いていた。頭を叩き割って大工の棟梁を引きずり出すために、何度も二階の自宅アパートの窓から身を乗り出

          残された手紙【第十三話】

          手紙【第十一話】

          ☆ 2016年 8月11日 東京〜地元 ☆ 「お前何買う?」 「私はいいですよ、まだお腹空いてないし」 「いずれ減るよ。先に買っとけよ」 「いいですってば。お茶だけ買っときますよ」 「奢るぞ」 「じゃあこれの高いやつで」 「…」  私は新杵屋の牛肉どまん中を手に取って、先輩に渡した。  朝の6時半、名古屋経由の新幹線に乗る。夏季休暇とお盆前期間に入り、旅行や帰省らしき人がいるが、若干時期を外したおかげで混雑は避けることができた。  私が通路側に座り先輩が窓際に座ると

          手紙【第十一話】

          「世界の果て、夜明け前」 「破滅派」掲載にあたって、マルチポストに当たると考え、noteでの公開を非公開にしました。

          「世界の果て、夜明け前」 「破滅派」掲載にあたって、マルチポストに当たると考え、noteでの公開を非公開にしました。