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【超最短マスター知財検定3級】#04出願から権利化まで【2019年7月実施回】

出願後の手続きは学科、実技ともによく出題されます。登録要件に次いで頻出の領域です。本稿では特許出願を中心に説明します。余裕のある人は特許法と比較しながら他法も整理するのをお勧めします。

特許出願から権利化までの流れ

特許出願から特許権の発生までのおおまかな手続きの流れを図に示します。青色の吹出しは出願人の手続き、緑色の吹出しは特許庁の手続きです。所定の書類を揃えて特許出願した日が「出願日」です。出願日を基準にして、様々な手続きの期限が決まります。出願日から1年6月経過後に出願内容が「出願公開」されます。特許権を取得したければ、出願日から3年以内に「出願審査の請求」が必要です。審査官による実体審査が始まり、新規性違反など所定の拒絶理由に該当すると拒絶理由が通知されます。出願人は手続補正書や意見書等を提出し、出願内容を補充訂正(「補正」という)することができます。補正により拒絶理由が解消したと判断されれば「特許査定」の謄本が送達されるので、期限までに特許料を納付し、特許原簿に設定登録されれば、特許権の発生となります。

出願公開

出願すると原則として1年6月後(優先権主張出願は先の出願日から1年6月経過後)に出願内容が公開されます。

出願公開制度の趣旨従来は実体審査を経て拒絶理由の存在しない特許出願について出願内容を公告していた。しかし審査の遅延により発明内容が長期間公表されないと、同一対象への重複研究、重複投資を招く弊害を生じることとなる。そこで昭和45年改正において、出願日から1年6月経過後、審査の段階に関わらず出願内容を公開する出願公開制度を導入した。

出題例

【第30回3級学科試験】問19 ア~ウを比較して,特許出願についての出願公開の請求又は特許掲載公報の発行に関して,最も適切と考えられるものはどれか。

ア 何人も出願公開の請求をすることができる。
イ 出願公開の請求は公開特許公報の発行前であれば,取り下げることができる。
ウ 特許掲載公報の発行の日から6カ月以内であれば,特許異議の申立てをすることができる。

解答 ウ
特64条の2 特許出願人は、所定の場合を除き、特許庁長官に、その特許出願について出願公開の請求をすることができる。
2 出願公開の請求は、取り下げることができない。

ア 出願公開の請求ができるのは特許出願人のみ(特64条の2第1項)
イ 出願公開の請求は取下げることができない(同2項)
ウ 何人も、特許掲載公報の発行日から6月以内に限り、特許庁長官に、特許異議の申立てをすることができる(特113条1項)。

【第27回3級学科試験】問24 ア~ウを比較して,意匠法に規定されている制度に関して,最も不適切と考えられるものはどれか。ア 関連意匠制度  イ 出願公開制度  ウ 秘密意匠制度

解答 イ
意匠法に出願公開制度はない。特許に比べ審査に時間がかからないからである。また、デザインは流行があるため、数年後に実用化するデザインを先に保護したいという実務上のニーズがあるため、設定登録後、最長3年間は登録意匠を非公開とする「秘密意匠制度」がある。

出願審査の請求

特許出願があったときは、何人も、その日から3年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができます(特48条の3第1項)。ひとたび出願審査の請求をすると、特許庁で実体審査にとりかかるため、出願審査の請求は取下げることはできません(同条3項)。また、期限内に出願審査の請求をしないと、特許出願は取下げられたものとみなされます(同条4項)。

出題例

【第30回3級学科試験】問2 ア~ウを比較して,特許出願についての出願審査請求に関して,最も不適切と考えられるものはどれか。ア 出願審査請求の取下げは,特許出願人のみがすることができる。イ 出願審査請求をしなければ特許出願の審査は行われない。ウ 出願審査請求は,特許出願人以外の第三者もすることができる。

解答 ア
ア 出願審査の請求は取り下げできない(特48条の3第3項)。
イ 特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求を待って行なう(特48条の2)。
ウ 出願審査の請求は何人もできる(特48条の3第1項)。

【第31回3級学科試験】問26 ア~ウを比較して,特許法に規定される出願審査請求の手続に関して,最も適切と考えられるものはどれか。ア 出願日から1年6カ月経過後は出願審査請求をすることはできない。イ 出願人及び利害関係人以外の者は出願審査請求をすることはできない。ウ 出願審査請求した後に,出願審査請求を取り下げることはできない。

解答 ウ
ア 出願日から3年以内に出願審査の請求ができる(特48条の3第1項)。
イ 出願審査の請求は、何人もすることができる(同)。
ウ 出願審査の請求は、取り下げできない(同条3項)。

新規性喪失の例外(特30条)

趣旨
特許法は、新規発明公開の代償として特許を付与するため、特許要件として新規性を要求します(特29条1項各号)。しかし、この原則を画一的に処理すると不可抗力の場合等においても救済されず、具体的妥当性を欠く場合もあります。そこで、発明者と一般公衆の利益調和の観点から、一定条件下で新規性喪失の例外を設けています(30条)。

具体的な手続1.最初の発表から1年以内に特許出願をする。2.出願と同時に「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受ける旨」を記載した書面を提出する。3.出願から30日以内に「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受ける要件を満たすこと」を証明する書面を提出する。※平成30年改正で救済期間が6ヶ月から1年に延長された。

出題例

【第31回3級学科試験】問29 ア~ウを比較して,新規性を喪失した発明に関して,最も不適切と考えられるものはどれか。ア 特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であっても,新規性を喪失した発明とみなされない場合がある。イ 特許出願前に外国においてのみ公然知られた発明は,新規性を喪失した発明である。ウ 特許出願後,出願公開前に外国においてのみ公然実施された発明は,新規性を喪失した発明である。

解答 ウ
ア 新規性喪失の例外規定(特30条)に基づく手続きにより、新規性を喪失しなかったものとみなされる場合がある。よって適切。
イ 新規性の判断は世界基準。よって適切。
ウ 新規性の判断は出願時。出願後の行為によって新規性を喪失しない。よって不適切。

拒絶理由通知への対応

出願審査の請求がなされると、出願に係る発明が特許要件を具備しているかなどの実体審査が始まります。審査官は、特許出願が法上に限定列挙された拒絶をすべき理由に該当する場合、拒絶をすべき旨の査定をしなければなりません(特49条)。ただし、拒絶査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないとされています(特50条)。いきなり拒絶査定をするのではなく、告知聴聞の機会を与えるためです。

拒絶理由通知が届いたら、出願人は手続補正書や意見書を提出して反論等することができます。我が国は先願主義を採用しているため、特許出願を急ぐあまり書類に不備のある状態で出願することも考えられます。なんら救済の機会を与えないのは出願人に酷なので、一定の制限の下、出願後の補正を認めることとしています。補正が認められると、補正した後の内容で最初から出願したこととする遡及効が得られます。

出題例

【第31回3級(管理業務)実技試験】(拒絶理由通知への対応) 化学品メーカーX社の研究者甲が発明した化学繊維Aについて,X社が特許出願Pを行い出願審査請求したところ,審査官から拒絶理由が通知された。この場合において,甲はどのような対応をすべきかをX社の知的財産部の担当者乙に聞いたところ,発言1のような回答があった。

発言1「拒絶理由が通知された場合に,その通知の際に指定された期間内に特許請求の範囲,明細書について補正をする場合は手続補正書の提出が必要ですが,必ずしも補正書とともに意見書を提出する必要はありません。」

問1 発言1について,適切と考えられる場合は「○」を,不適切と考えられる場合は「×」を,解答用紙に記入しなさい。
問2 問1において,適切又は不適切であると判断した理由として,最も適切と考えられるものを【理由群Ⅰ】の中から1つだけ選び,対応する記号を解答用紙に記入しなさい。

【理由群I】
ア 拒絶理由が通知された際の補正は意見書においてすることができるので,手続補正書の提出は不要であるため
イ 意見書は必ず提出しなければならないというわけではないため
ウ 拒絶理由が通知された際の補正には,必ず意見書の提出が必要であるため

解答 問1 ○  問2 イ

拒絶査定不服審判

補正等したにも関わらず、拒絶理由を解消できていなければ拒絶査定の謄本が送られます。拒絶査定に不服あるときは、拒絶査定謄本の送達日から3月内に拒絶査定不服審判を請求できます。さらに、拒絶査定不服審判でも拒絶をする旨を覆すことができなければ拒絶をする旨の審決(拒絶審決)がなされます。

※審査の結論は査定(特許査定or拒絶査定)※審判の結論は審決(特許審決 or 拒絶審決)

拒絶審決に不服がある場合は、東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に拒絶審決の取消を求めて審決取消訴訟を提訴できます。

出題例

【第31回3級学科試験】問15 ア~ウを比較して,特許法に規定する拒絶審決に対する手続に関して,最も適切と考えられるものはどれか。ア 東京地方裁判所に訴えを提起することができる。イ 経済産業大臣に不服審判請求をすることができる。ウ 東京高等裁判所に訴えを提起することができる。

解答 ウ
審決に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする(特178条1項)。

まとめ

今回は特許出願から権利化までの手続について触れました。出願後は特許庁と出願人との間での手続がたくさんあります。誰が、いつまでに、何を、どうできるのか、その結果どういう効果が得られるのか、などの要件とともに情報を整理しておくと良いでしょう。

次回は、権利化後の権利の管理・活用について説明します。

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