七つの前屈ep.安楽詩衣「役職、機能、委員長」⑧

8.

「そこまでだ、ガキども。今日のところは帰れ」

 銭路添零流。せんろぞいれいる。公立域還高校二年二組担任。転落した元エリート。

 数学教師。定理を当てはめ解を求める、整然とした学問の流布に身を呈す教育者──そんな、殊勝なものじゃない。

 隣の一組の担任ほどではないが、この教師も大概、教育者としては終わっている。

「続きはまた明日、ね。放課後もこの時間までは鍵は開けておくようにするからさ──頼んだよ、安楽詩学級委員、長」

 埋連尽射羽。うまれつきうつわ。公立域還高校二年二組副担任。七光りに輝く御曹司。

 域還市長の息子である彼は、嘲るような笑みを蓄えて、衣を見遣る。わざわざ『長』という響きを強調して──これは彼女が学級委員に任命された学級会ではまだ付与されていなかっ
た一文字だ──安楽詩衣に、期待を寄せる。

 仕事を振る。役割を与える。

「高校の文化祭の思い出なんて、どうせ大人になったらすぐに消え去る。明日の予習をしていた方が、いくらか有意義だ」

「さあ、これにて学級会はひとまず閉廷だよ──きみたちの出番はここで終わりだ。次の舞台は、彼女ら主役候補に任せておいて」

 身も蓋もない溜息と、意味深で不可解な戯言を残して──二年二組の舞台はここで、幕を閉じる。

 調和に甘んじる学級委員を、中心に据えたまま。

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