見出し画像

菊池直恵 漫画 横見浩彦 旅の案内人「鉄子の旅」第1巻レビュー「「鉄ちゃん」ってどんな人?」って知りたい方にオススメの漫画です。」

漫画家の菊池直恵さんがトラベルライターの横見浩彦さんと共に
鉄道に乗った体験を描いたルポルタージュ漫画。

熱心な鉄道ファンの事を「鉄っちゃん」「鉄」と呼ぶが,
性別は100%間違いなく男で,女は絶対にひとりもいないと言う。

一体「それ」は何故なんだろう?

菊池さんは「鉄ちゃん」の横見さんと一緒に鉄道に乗るから便宜的に仮免的に「鉄子」と称されるが,これまで菊池さんにとって「鉄道」とは「移動手段のひとつ」に過ぎず,東京から京都に行くなら新幹線,東京から鹿児島県・指宿(いぶすき)に行くなら羽田ー鹿児島間を飛行機で行くと思考し,彼女の思考には「予算の許す範囲でなるべく早く」という「合理性と効率」が前提にあって「我々の常識」に従って思考する一般人の立場から横見さんの「合理性と効率」をガン無視した「旅」の我々の常識を覆す異常性に突っ込んで行く。

横見さんは本作品の連載当時(2001年~),
1987年に国鉄(=日本国有鉄道…が1987年4月1日付で民営化され「国有」で無くなり日本鉄道つまり英語で言えば「JR=JapanRailroad」と呼ばれる様になる前の名前ですね。横見さんの「国鉄」と呼ばれている内(1987年3月31日まで)に「記録」を達成しておきたかった気持ちと焦りが伝わって来ます。急がないとJR全駅下車達成と併せて「二冠」を獲る機会が永遠に失われてしまう訳ですから。)線完全乗車達成・1995年にJR全駅下車達成した事で知られる鉄っちゃんで2005年2月を目途に私鉄全約5000駅下車達成予定だと仰られてたからもうとっくの昔に達成されてる筈。
「鉄道に乗る事」以外に金をかけたくないので飲み物はコンビニで1リットルの紙パックのお茶を買って飲めるだけ飲んで残りは500㎖のペットボトルに移し,食う物は専ら食パン。
「泊まる」と言えば車内泊か駅構内で寝る事を指し,宿泊代を浮かす。
愛読書は勿論時刻表。
「知識も増えるし細かい情報も満載!」
「こんなに読む所が沢山あって面白い本が毎月出るなんて!」
とは横見さんの弁。
JRの普通・快速列車の普通車自由席に一日中乗り放題の「青春18きっぷ」はマストアイテム。
「観光」なんてする訳ねえ…と菊池さんの「旅」の概念をブチ壊して行く。
人間ってここまで「何か」に特化出来るんだなあ。

第1話で横見さんが「(この漫画を読んで)鉄道好きな女の子が増えて僕のファンが出来て可愛い女の子と知り合えたりするのかな」って下心を披歴して「殺風景な心象風景が広がってるとばかり思われた「鉄っちゃん」のオマエに…そんな「人間らしい心」があったのか…!」と読者が驚く所が本作品のクライマックスですね。

そんな横見さんの提案する「旅」とは例えば
東京駅から鹿児島県・指宿駅までの各駅停車の列車乗り継ぎの旅であって
車内泊しながら丸2日かかる。
僕達がテレビで放送される「ローカル路線のんびり各駅停車の旅」とかに旅情とか郷愁を感じるのは「ローカル路線だから」「路線が短いから」「車内泊しないから」であって横見さんの提案する丸2日間ぶっ通しで各駅停車の列車に乗り継いで東京から指宿まで行く「旅」と,僕達がこういうテレビ番組を観てる時に感じる「旅」って概念とは根本的に意味が違うのだ。
僕達は!横見さんの様に2日間ぶっ通しで
「旅情」を感じ続けられる様な「体のつくり」になっていないのだ。
指宿駅に着いてヘトヘトになった菊池さんが
「一体何の為にこんな事を…」
と言うのが毎回毎回の決め台詞となり,
そんな菊池さんに横見さんは
「長時間かけて目的地に辿り着くって言うのは旅の本質だよ!」
「世の中にはそんな旅をやりたくてもできない人がたくさんいるんだ!」
「これはとても贅沢なことなんだよ!!」
と「旅の本質と贅沢との関係」について講釈を垂れ,
菊池さんは「例え時間があったってやらない人の方が絶対多いけどね…」と
突っ込み続けるのだ。

「「鉄っちゃん」ってどんな人?」って知りたい方にオススメの漫画ですね。
『女の「鉄っちゃん」がいない理由』も横見さんの
「人となり」や所業を知るにつれて自ずと明らかとなる構成に唸ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?