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福満しげゆき先生の「終わった漫画家」第1巻レビュー「「終わった漫画家」は漫画家志望の高校生をプロデュース出来るのか?」

「才能が枯渇し情熱が消え失せ,これまで培った技術のみで
漫画を描いている」と自称する漫画家。

肥満していて男子から「デブ」呼ばわりされ暗い青春時代を過ごし
そのうえバイクを運転中に車との接触事故を起こし
意識不明の重体となったが長い入院生活で体重が激減し
美しい肉体を手に入れたところ途端に男どもが言い寄ってきて
「あからさまか!」と男どもを軽蔑するだけでは飽き足らず美貌を武器に
金持ちの男との玉の輿生活を画策する女性(A子)。

漫画家志望で落ち目の漫画家のアシスタントとなり作画技術を盗んで
漫画家デビューを画策する女子高生(B子)。

この3人が本作品の主要な登場人物となる。

自称「終わった漫画家」のアシスタントの座を獲得したB子は
漫画家の作画スピードに驚き次に漫画家の貯金額に驚く。
漫画家は否定するが女子高生の金銭感覚では
「都心に家が建つ」「地方なら2軒家が建つ」
レベルの貯金額だという。
次にB子は漫画家が過去に描いた漫画を読み耽り
思わず漫画家にこう聞いてしまう。

「先生の最初の連載漫画!!」「すごく面白かったです」
「先生はなんでやる気をなくしてしまったんですか?」
「なんで本気で描かないんですか…」「これだけのものが描けるのに…」「私が先生ぐらい描けたら,もっと本気で描くのに…」

言葉のナイフで漫画家の臓腑を抉るB子。
漫画家とB子との一触即発の空気を読んだA子が
ふたりの間に割って入りB 子が話を考え
漫画家がその話を基に作画してはどうかと提案する。
漫画家からしてみればド素人が考えた話を
何故自分が作画しなければならないのかが到底理解できない。
一方B子はA子の提案に大乗り気で心の中でこう呟く。
「私には…(漫画家になる)才能なんてない…」「本当は前から気づいてた…」「でも私なりに積み重ねてきたものがあるんだ!!」
「私のプロット自体通用するのかどんな形でもいいから早く試してみたい」「私はプライドや名誉より実益を取りたい!」
「早く結果や確証が欲しい!」
B子の押しの強さに根負けし
漫画家は今回に限りB子の原作を漫画化することを約束する。
漫画家はB子をアシスタントとして雇ってから暫くして
彼女について次のように感じたことを思い返す。
「しかしこのB子ちゃん…僕自身の漫画への何かを
取り戻すヒントがあるような気がするしな」
B子はA子とは別ベクトルで前向きに貪欲なので
見ていて不快にならないのだ。
「女であること」を武器に漫画家にもたれかかって来るA子とは大違い。
漫画家はB子から受け取ったプロットを
「B子が漫画の練習をあと4,5年続けたときの絵柄」
をイメージしてワザと稚拙に描くという離れ技を
2日間ほとんど眠らずに実現させる。
例え漫画家の「才能が枯渇している」という自己申告が正しかったとしても
漫画に関する長年培った技術だけでこれだけのことが出来てしまうのだ。
一方B子は漫画家から受け取った原稿を漫画雑誌の編集に見せたら
どのような反応が得られるのかが気になる。
B子は漫画家から必ず漫画雑誌に掲載されるとは限らないが
複数の漫画雑誌に今回の原稿を送り続ければ何らかの賞に入選する確率は
宝くじよりはるかに高いと思うとの言質を得て受け取った原稿を
複数の漫画雑誌に送りつける。
そしてある日,ある漫画雑誌の編集者から電話がかかり
会って話をしたいという。
「続き」が大変気になるが第1巻はここまで。

いやあ実に面白い漫画だなあ!
本書の試し読みをした段階では「終わった漫画家」の冴えない日常が
陰々滅々と描かれる漫画と思いきや,その実態は漫画家の協力のもと
B子が活躍する熱血青年漫画ではないか!
個人的に気に入った場面は漫画家の心理描写の場面で
「人間は「いつか死ぬ」とわかってるし…。
そう遠くないうちに漫画家として死ぬこともわかっている」
「でも今日急に死ぬわけじゃないから
今まだある仕事を全力でやるしかない」
「全力でやっても結果が出ないのが…いちばんつらい…」
という件で,これ以上漫画家の心境を的確に吐露しているモノローグは
そうそうないと思う。
また漫画家は暇があろうがなかろうがゲームに手を出す描写もいい。
因みに本作品における漫画家のハマっているゲームは
ニンテンドースイッチ版「ゼルダの伝説」と「スプラトゥーン2」だった。

老眼鏡をかけねば到底読めぬ細かい後書きを読むと
漫画家が男性でアシスタントのA子とB子が女性なのは
「エヴァンゲリオン・システム」を採用したためとのこと。
正直A子は容姿は兎も角心根が卑しい
成長性E(超ニガテ)のキャラなので心底どうでもいい。

また本作品は「2巻ぐらいまでは…出るかな?」とのこと。
僕は本作品の続きが読みたいので是非第2巻を出して欲しい。

本当に面白い作品なので
ひとりでも多くの方に本作品を読んでいただきたい一心で
こうしてレビューを書いている次第である。

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