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長谷川哲也先生の漫画「ナポレオン 獅子の時代」第1巻レビュー「長谷川先生の「不眠不休で行軍する鉄の漢(オトコ)達を描きたい」との思いがナポレオンの偉大な陸軍…大・陸軍(だい・りくぐん=グランダルメ)構想と結び付き本作が誕生したのだ。)

僕は無駄に長く生きていて無駄に長くレビューを書いている故なのか
極稀に「感想」を頂く事がある。
昨日拙「ナポレオン」レビューで非常に好意的な感想を頂戴し,
調子に乗って『「ナポレオン」完結時には「通し」で感想を書く』
などとウッカリ安請け合いしてしまったが,
長谷川哲也先生程の才能が20年以上,倦まず弛まず描かれて来た
「ナポレオンの生涯」に対する感想が
400字詰め原稿用紙2枚に納まる訳もなく,次善の策として
各巻の感想を連載して最終的に統合し
最後に「長谷川ナポの一生」をナマイキにも総括めいたことが出来ればと
お茶を濁し日和った次第である。
ヘタレで申し訳ない。

正直な話,『「ナポレオン」の感想』は
「書き下ろし」では到底不可能で
「連載」にしないと書ききれねえのである。
どうか御容赦願いたい。

記念すべき連載第1回は「ナポレオン 獅子の時代」第1巻レビューとなる。
第1巻の最初の数話は「アウステルリッツ編」と呼ばれ
ナポレオンが皇帝に即位してから1年が経ち,
彼がオーストリア・アウステルリッツ近郊で陣を敷き
ロシア・オーストリア連合軍との戦いを前にしていることろから始まる。

最初に登場するルイ・二コラ・ダヴ―元帥は最初から非常に人気があった。
美形の人形を魔改造して禿げ頭にして眼鏡をかけさせ
(ダヴーは弱視の為,本や作戦書を読むのにも眼鏡が必須だった。)
命令書を読んだり後に握力で「バリン」と割るティーカップで茶を飲む
見目麗しい「きれいなダヴー」の自作フィギュアが
たちまちSNSにアップロードされ
獅子の時代第2巻折り込みに掲載される事となる。
ダヴーは「萌えキャラ」として認識され
「眼鏡っ子」だの「大陸軍ティータイム」だのと持て囃されたのだ。

れっきとした証拠がある。
平野耕太先生の「進め!!聖学電脳研究部」という
高校のゲーム同好会を描く漫画の欄外で
平野先生がお好きなゲームの紹介をされているのだが,
「ナポレオン戦記」というゲームの紹介はこうだ。

「大陸軍(グランダルメ)は…」
「世界最強~ッ!!」
「ダヴー命」
「メガネッ子」
「ハゲだけど」
「ゲームと関係ないけど」

「ゲームの紹介」になってねえのである。

また平野先生の「以下略」という漫画では
史実に忠実なナポレオンを登場させ
「っざけんな」
「この小太り中途半端デブめ!!」
「オメーよりダヴーの方がつえーんだよ!!」
と突っ込んだり
平野先生が長谷川ナポのコスプレして
「大陸軍(グランダルメ)は~ッ」
「世界最高!」
と怪気炎を上げられている。
平野先生はダヴーとマッセナのファンでスキが昂じて
「ナポレオン 獅子の時代」第3巻(マッセナ初登場巻)の帯で
漫画を寄稿されている。(詳細は3巻レビュー時に譲る。)

本巻で次に人気があったのがロシア皇帝(ツァーリ)アレクサンドルで
彼の「独創的な髪型」に人気が沸騰し
検証サイトがたちまち創設され
彼の「独創的な髪型」は長谷川先生の独創ではなく
彼の肖像画を元に創作されたものだと結論されていた。

長谷川先生御自身のブログで
「余の独創的な髪型が」
「長谷川某なる漫画家の独創であるかの如き
言説が流布されてるのは許し難い」
「死刑」
記述され,
ツァーリに死刑を宣告されている。

長谷川先生がコミック・トムに持ち込みをされた際,
『「ナポレオン」の漫画を描かないか』
との打診があり,先生は元々古代史に御興味があり
それに何より「フランス革命」「ナポレオンの時代」に関しては
池田理代子先生という大先達がおられて
ナポレオンの事を描くにはフランス革命を描く必要があるが
「フランス革命」というと池田先生の描かれた煌びやかなイメージがあり
ゴツゴツした男達を描きたい長谷川先生に気後れがあったのだが
実際に描いてみると「全てが違った」と述懐されている。

そこにいたのは現代人からはかけ離れた強靭な漢(オトコ)達であった。
ある者は野心の為,ある者は国を守る為,
死を恐れながらも銃弾に身を晒し銃剣で殺し合う。
ナポレオン帝国の栄華は地獄絵図の中から
プカリと浮かび上がった油膜のキラメキ…漢達の見た夢であった。

仲間の救援の為に24時間不眠不休で行軍し,
そのまま戦闘になだれ込み勝利,
更に逃げる敵軍を追撃して壊滅させる様な所業は
機械化された現代の軍隊には出来よう筈もない。

トムの連載が終了して2年。
少年画報社の筆谷氏が
『「ナポレオン」をもう一度ウチでやらないか』
と声を掛けて下さったのである。

ナポレオンやベルティエやマッセナに。
前作では会えなかった
ダヴーやネイやランヌやタレイランに会いたくなった。
描いている僕ですら実在を疑いたくなる様な漢達に。

こうして「ナポレオン 獅子の時代」の連載が開始されたのである。

長谷川先生が「ナポレオン」を描かれる上で
「不眠不休で行軍する鉄の漢達」
の描写は必須で「不眠不休で行軍する偉大な陸軍」…。
「大・陸軍(だい・りくぐん=グランダルメ)」
の構想が先生の思想の中核に据えられた。

その先生の思想が形となって表れたのが
「大陸軍(グランダルメ)は世界最強ォォォ~ッ!」
というナポレオンの叫びであり
工作員としてフランス軍に潜入したクロイセが
ナポレオンの「大陸軍(グランダルメ)は~ッ!」
「続きを言ってみろ!」
と問われ「世界一ィィィ~ッ!」と答えたのは
恐らくジョジョの奇妙な冒険第二部のシュトロハイムの
「ナチスの医学・科学は世界一ィィィ~!」
が長谷川先生の念頭にあり
しかしながらナポレオンは「違う!こうだ!」といい
「世界一ィィィ」でななく「世界最強~ォォォ」と訂正して
ナチよりも俺達の方が凄いと強調されたのだと思う。

この…「大陸軍(グランダルメ)は世界最強!」は平野先生だけでなく
野上武志先生が「萌えよ!戦車学校Ⅱ型」でフランス軍の紹介の際に
フランス人のセシルが
「何故フランスがナチスドイツの電撃作戦を許したか?」
の問いに対し
「我がフランスが平和を愛する文化国家だから」
とボケたところ
「ハア?ナポレオンはどうすんのよ!」
「グランダルメは世界最強!」
と突っ込まれている。

アウステルリッツ編が終了すると
時間と舞台は1769年コルシカ島に移る。
レテッツィアは既にナポレオンを身籠っており
コルシカのパスカル・パオリがコルシカ独立運動を起こすものの
フランスは大軍を送り込んで鎮圧。
そのときのフランス軍の司令官が「ほうそうの虎」ことミラボーだった。
パオリは敵前逃亡し機会を待った。
レテッツィアは玄関でナポレオンを産み
「フランス人に復讐するんだ」
と教え込む。
ナポレオンは父親のコネでフランス幼年学校に入り
若き日のブーリエンヌ(後のナポレオンの秘書)やダヴーと出会う。
コルシカ独立運動が鎮圧されてから
間もなく20年が経過しようとしていた…。


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