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オトナプリキュア第7話「ウレイノカジツ」レビュー「うららの失意と再生の物語はうらら役の伊瀬茉莉也氏の失意と再生の物語でもあるのだ。」

春日野うららはコドモの頃の夢を叶えて舞台俳優となり
高名な演出家・滝川鞠子に抜擢され舞台劇「エンジェル」の主役となった。
だがうららは稽古の過程で滝川の望む水準に
なかなか達する事が出来ず第2話に於いては
「貴方,外れて頂戴」
と言われ泣き出してしまう。
コレは春日野うらら役を演じる伊瀬茉莉也氏の実体験が元となっている。
「プリキュア5」の春日野うらら初登場回で
ガチガチに緊張する伊瀬氏を見たプロデューサーから
「(極度の緊張による体調不良下では満足の行く演技は出来ないだろうから)
今日は帰って休みなさい」
と言われたのを
「所詮君には春日野うらら役は無理だから降板して欲しい」
と言われたと伊瀬氏が早合点して号泣してしまったのだ。
「今日は帰って休みなさい(=リフレッシュして仕切り直しましょう)」と
「降板」とは根本的に違うのだが
当時の伊瀬氏にはその区別が付かなかったのだ。

第2話と第7話の脚本を担当された成田良美氏は
伊瀬氏の実体験を脚本に反映され,
うららの失意と再生の物語として再構築されたのだ。

「暇を出す(ひまをだす)」という表現には
1.休暇を与える
2.立場が上の者が下の者を辞めさせる
のふたつの意味があり
今回の脚本に於いて重要な役割を果たしている。

昔の吉本興業で芸人が「休ませてくれ」と訴えたところ
「おう休ませたるわ」「何なら一生休んどれ」
と言い放った逸話が「暇を出す」のふたつの意味…。
…「休み」と「解雇」の関係を良く表している。
つまり解雇とは「一生続く休み」であり
芸能分野において「休め」は俄かに額面通りに受け取れない言葉なのだ。

伊瀬茉莉也氏が「今日は帰って休みなさい」って言葉に号泣されたのは
「何なら一生休んでたらどうですか」と言われたと早合点され,
「もう二度と起用して貰えない」事に恐慌を起こされたからなのだ。

第7話で演出家・滝川から1週間の休暇を与えられたうららは,
「暇を出された(=荷物をまとめて田舎に帰れ=貴方は降板です)」
と曲解して,ひとりで部屋で泣いていると,シロップが訪ねて来る。
シロップはのぞみ達から
うららが演技で悩んでいると聞いてやって来たのだ。
シロップは演技の障りとなるからと食事制限したり
大好きだった歌を歌うのを辞めてしまったうららの行動が理解出来ない。

「オマエは中学生の頃,プリキュア5の中で一番大食漢だったじゃねえか」
「バクバク食ってるオマエは幸せそうだったぜ」
「それに泣いてる赤子を泣き止ますオマエの歌を何で禁じ手にするんだよ」
「中学生の頃,歌ってるときのオマエは楽しそうだったぜ」
「オレが音楽が好きなのはオマエに楽しさを教えて貰ったからなんだ」

シロップはうららの「フォロワー」であることを明かし
「歌がオマエの得意技なんだから歌えよ!」
「オレもオマエの歌を聞きたいんだ」
と赤面する。
文芸であれ演技であれ「何かを創作する者」にとって
「全肯定してくれる存在」が如何に有り難いかが綴られて行く。
従って何かを創作する者にとって疎ましいのはチクチク針の様に刺して来る
「匿名の悪意」なのである。
ネットにおける「アンチ」がシャドウの温床になっているのだ。
「アンチ」から生まれたシャドウに怖気付く,うららをシロップは叱咤する。
「オレはオマエ達プリキュアから「諦めずに前に進む事」を教わったんだ」
「前に進めよ,うらら!」
コレは「プリキュア5」から勇気を貰った子供達からのエールなのだ。

ブワワワアアア!

前に進みながら「キュアレモネード」に変身するうらら!
シャドウ(アンチ)に鉄拳制裁を下すうらら!
こんなん涙でTV画面が歪むわ!

オトナとコドモの間には「断絶」など無く,
オトナは無数の過去の集積した結果であり未来に向かう過程でもある。
コドモの頃,羽ばたけたならオトナの今だって羽ばたける!
コレが本作に於ける「弾けること」であり「エンジェル」となる事なのだ。

言い換えるなら春日野うららが
「弾けるレモンの香り」を謳い文句とするレモネードに変身する事であり
オトナになった春日野うららが天使(エンジェル)に変身する事であり
伊瀬茉莉也氏が春日野うららに変身する事なのだ。

1週間の休暇を終えて滝川女史と再会するうらら。
何があったか知らないけれど
リフレッシュして生き生きとしたうららを見た滝川は
「休暇をあげた甲斐があったかな」
と漏らすのであった。
もうね。脚本が完璧過ぎて只々泣けてくるのである。

今回の話はプリキュア5やスプラッシュスターのメンバーが
勢揃いしてません。
だって今回は「春日野うららの話」なんだから。
ニチアサの「プリキュア」と違い
「全員登場させる事」がノルマじゃないから,
こんなにも個人に特化した
濃密な話作りが出来るのが「オトナプリキュア」の強みですね。

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