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シュテファン・ツヴァイク著・中野京子新訳「マリー・アントワネット」レビュー「噴飯物の帯を弾劾する。」

池田理代子先生の「ベルサイユのばら」は僕が小学校の頃,人気が爆発して禁止されていた漫画本を持ち込んで回し読みしたり,クラスの朝の合唱歌に「薔薇は美しく散る」が選ばれたりと大変な騒ぎだったが僕が池田先生に一番感謝したいのは伝記作家シュテファン・ツヴァイクと出会う機会を与えてくれた事である。ツヴァイクのクドイ文体はスティーヴン・キングの「シャイニング」のクドイ文体に痺れた僕を魅了せずにはおかず家人に布教したところ「この…アントワネットって人さあ…」
「どうせ助からないんでしょ?」
「このツヴァイクって人さあ…絶望のどん底で打ちひしがれてる人にホンの少しだけ希望を与えておいて後になってその希望を強奪して更なる絶望のどん底の更に底に突き落とすのを繰り返してるだけじゃん!」
「アンタが勧める小説って皆そう!」
「アンタは変態作家に傾倒する変態だよ!」
「この変態がッ!」
家人はいいレビュアーになれると思いました。

ツヴァイクは多分さあルイ16世に好意を持っておらず「包茎手術を忌避し続ける臆病者」と思ってて,その反面フェルゼンを「絵のような男」だのアントワネットに(夫を差し置いて)初めて「女の歓び」を与えた男だの散々持ち上げてて依怙贔屓が激し過ぎるのが魅力ですね。

中野京子氏による新訳は岩波文庫版とは読み易さが雲泥の差なのがいいですね。

ところで新訳の帯には「待望の新訳,悲劇の王妃「ベルサイユのばら」の原点がここに。」って謳っているのですが,コレ…何処がおかしいか分かります?

例えばさあ紫式部の「源氏物語」に新訳が出たとするじゃないですか。
その新訳版「源氏物語」に「待望の新訳!「あさきゆめみし」の原点がここに。」って帯が付いてたら「ハア?」ってなるじゃん。
何で「あさきゆめみし」を持ち出すの?
「あさきゆめみし」に援護射撃されずとも「源氏物語」は1000年以上続くベストセラーなんですけど?それが何か?ハア?
ってなるじゃん。
いちいち「ベルサイユのばら」を持ち出さずともツヴァイクの「マリー・アントワネット」は90年以上前から傑作で名作なんじゃいボケッっと言いたいのである。

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