見出し画像

Back to I Want You Back

 Homecomingsは大学のサークルで結成したバンドだ。京都のちょっとした山の上(ここは標高が京都タワーと同じらしいよという話を100回くらい聞いたり言ったりした)にある小さな町にある小さな大学の小さな部室ではじめて4人が揃って音を出した日にできたのが「Sunday」という曲だった。すぐに大学の外でライブをするようになり、夏にはセカンドロイヤルの小山内さんと出会い、冬には7インチのために「Home」と「In Betwen Summer」をレコーディングをした。ずっと思い描いていたバンドらしい活動がはじまってなにもかもにわくわくしていた僕と彩加さんとは違い、なるちゃんとほなちゃんはどこか心あらずという雰囲気がずっとあって、どこか巻き込まれているようなかんじでもあった。そもそも大学に入る前から親友だった僕と彩加さんと大学の先輩であるふたり、という関係だったから友達が4人集まっている、というのとも違うし、関係性はどうでもいいから良い音楽をやりたい、というのも違ってなんだかふわふわしていた。そんなある日(たしかはじめてのレコーディングの次の週とかだったと思う)、ほなちゃんとなるちゃんから話がある、と呼び出された。忘れもしない食堂の2階にあるファミリーマートの前に置かれたテーブルで、はじめて4人で真面目な話をした。ふたりは大学を卒業と同時にバンドも辞めるつもりらしかった。その予兆はなんとなくあったし、部活の雰囲気的にもそうなるのが当たり前、という感じではあった。そのことについて彩加さんとふたりで話したことも何度もあったし覚悟も予想もしていたことだったけれど、いざ面と向かってその話をされたときにまっさきに僕が思ったのは、この4人でやりたい、ということだった。彩加さんと話していたときには選択肢になかった、ふたりを説得する、というルートに自分でも意識せずに入っていた。2時間くらい話したあと、じゃあ、、やろっかな?とほなちゃんとなるちゃんが顔を見合わせて言った瞬間、僕は涙を流して、彩加さんはそれを見てゲラゲラ笑っていた。振り返って思うとあれが今の4人っぽい空気になった瞬間かもしれない。その冬が終わり、春になってふたりが卒業する直前、部室でも最後の練習の日に作ったのが「I Want You Back」だった。家で原型になるコード進行を作ったのをうっすらと覚えているので、なんとなくセッションしてたらできた、とかではなくて、最後だから曲を作ろう、と思って準備していったんだと思う。なにも悩まずにあっという間に完成して、すぐにライブでも演奏した。サビでストロークスっぽいフレーズが弾けるのが楽しかった。その頃にははじめてのミニアルバム『Homecoming With Me?』の録音は終わっていたので、ライブでは毎回やるけどそのあとに出た作品には入っていない、音源化されていないけど盛り上がる曲、みたいなポジションだった。ライブを重ねるうちに「I Want You Back」は不思議な魅力を持った曲になっていった。
 いつの間にか当たり前のように東京でライブもやるようになり、その夏にはフジロックに出ることになった。つい半年まで当たり前のように辞めることになっていた4人は一緒に並んでグリーンステージのBjorkを観てひっくり返るくらいの歓声に圧倒されるくらい感動していた。その年のルーキーアゴーゴーはミツメと森は生きている、とHomecomingsという面白い並びで、信じられないくらいお客さんが来ていた。フジロックの帰り道、小山内さんが車のなかで、「I Want You Back」をシングルで出したい、という話をしてくれた。セカンドロイヤルと僕たちは契約書を交わすような関係じゃなかったから、それがこれから先も一緒にやっていこう、という約束のように思えてとても嬉しかったのを覚えている。

ここから先は

2,942字

tiny kitchen magazine club

¥700 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?