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New Neighbors 2023

 今年もあと何日かで終わり。毎年毎年、月日は当たり前のようにあっという間に過ぎ去っていくけれど、アルバムを出したり、夢のような大きなステージで演奏できたり、人生で一度は絶対に観たい!と昔から思い続けていたアーティストのライブをついに観たり、メンバーが卒業することが決まったりと、バンドが作り出す波のような流れに、悔しい思いをしたり心の底から感動したりしながら、離されないように常に両手に力を込めていたような日々はかなり楽しく充実していたように思う。特に今年は『New Neighbors』というアルバムを作れたこと、リリースできたことが本当に大きかった。いつでも新しい作品が自分たちのベストだと思っているし、一番愛おしく思えるものなのだけど、『New Neighbors』はそのなかでも特別な思い入れがあるアルバムだ。自分が好きなものを片っ端から取り出してごちゃまぜにして作ったお守りのような音楽でもって、遠くの光に向かっていくようなイメージで作った。隣人への優しさが回り回って社会を優しくしていく。そんな物語。『New Neighbors』が外向きなアルバムなら次の作品は同じように、好きなものだけでできたより内側を覗くようなものにしたいと思っている。それが反転して外につながる、みたいなものができたらいいな、と思う。
 アルバムを出した年の暮れは、いつもよりも少し波が穏やかな日々を過ごすことができる。だれかの年間ベストに入っていたり、よく聴いた曲のリストにあげてくれてたりするのを見るのはある種の自分へのご褒美のようなものでもあって、ほっとしたような嬉しい気持ちになるのだ。誰に届くかも分からずに窓から投げた手紙が誰かの窓に届くこと。それがまた自分に返ってくること。自分のために音楽を作る、というのはこういうのことなのかも、と深夜のファミレスで何杯目かのアメリカンコーヒーを啜りながら考えている。苦手だったコーヒーが飲めるようになったのは、4年前の年末に「Cakes」の歌詞を書くために毎晩通った出町柳のミスタードーナツのおかげだ。12月と1月の夜の空気がもつほこりっぽい、雪の予感がする匂いが大好きだ。窓際のこの席には外のそんな匂いがかすかにあるような気がする。今年もたくさんの音楽に救われた。そのなかから特に好きだった何枚かのレコードについて書こうと思う。自分のアルバムも含めてワクワクするリリースが多くて楽しい1年だった。
 もちろん音楽だけじゃなく映画や文学作品、漫画などのたくさんのカルチャーにも救われた。ついに完結した『違国日記』や、『Sex Education』、興奮して一週間に二度劇場に観に行った『everything everywhere all at once』。『Aftersun』も本当に良かった。『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』も自分にとってとても大事な映画だった。ジュンパ・ラヒリの『思い出すこと』という、小説とも、詩集ともいえる不思議な作品がとても好きだった。春に出たカーソン・マッカラーズの短編集はいろんな場所に連れ出てた少しずつ少しずつ読んでいたので、ぼろぼろになってしまった。ニック・ドルナソの『Acting Class』がとんでもなかった。
 あとはやっぱりフジロックでYUKIとStrokesとRomyを観れたことと、尊敬する柴田元幸さんと、朗読とギターというかたちで共演できたことも本当にうれしかった。『Candlelight』というイベントに出演できたこともとても大切な出来事だったと思う。来年はしょっぱなからなるちゃんの卒業に向けてめちゃくちゃライブするし、KBSでのくるりとのライブも本当に楽しみ。許されるならずっとなるのドラム観ながら演奏したい。4月からは新しいライブもたくさん決まっていて、これもハイパーたのしみだ。新しいHomecomingsも最高だと思う。今年もみなさん、ありがとうございました。来年のバファローズもたのしみ。

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