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never can say good-bye

 ふたつある最寄り駅のうちの小さな方の駅近くにある喫茶店で、コーヒーとブラウニーケーキのセットを注文した。コメントを仕上げるために入ったその店内はいつも作業をするファミレスやミスタードーナツと違い、煙草のけむりでもくもくだった。その前日にファミレスで閉店まで粘って書いたコメントは2000字を超えていて、発表される形になるまでかなりの文字数を削らなくてはいけなかった。なんとなくいつもとは違う環境で作業したいなと思って選んだ喫茶店だったけど、日曜の夕方という時間だからなのか狭い店内は古ぼけてこじんまりとした外観から想像していたよりもたくさんのお客で静かに混雑していた。ドアを開けて瞬間、今なら誰にも気づかれずに店をあとにできるかもしれない、という考えがあたまに浮かんだくらいだったけれど、いざ席についてしばらくすると、大きな窓から入る西日とコーヒーの湯気と煙草のけむりと、イヤホン越しのうっすらと聞こえる隣のテーブルの喋り声が混ざり合ってやけに心地よくなってきた。まどろみのような時間のなか、パソコンのなかの文章と見つめ合う。昨日の夜遅くに書いた文章はしっかりと昨日の夜遅く書いたような文章で、恥ずかしさが色濃い部分をごっそり削っていくだけでも文字数はどんどんと少なくなっていく。4分の1の分量にまで削ってかたちをととのえる。せっかくだし、元の文章も残しておこうか、とも思ったけれど、なんだかいきおいで上書きで保存して、送信した。なるちゃんが辞めちゃうのか、と変な実感が湧いてきてさみしくなってしまう。いつのまにか店内は人がまばらになり、窓の外は真っ暗になっていた。意識した途端に窓から外の冷気が入ってくるように感じられて、上着を羽織る。冷めたコーヒーでブラウニーのかけらを飲み込んで席を立つ。自転車に乗りながら、なるちゃんが辞めちゃうんやよなーと口に出してみたくなる。

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