見出し画像

国立劇場「コラボ忠臣蔵」

今月最初の歌舞伎は国立劇場「コラボ忠臣蔵」です。仕事帰りに夜公演’エッセンス’に行ってきました。ほぼ昼一回公演なのですが、週一回のペースで夜公演があります。昼の良いとこ取りをした短い時間の公演です。

面白いのが落語とのコラボ。春風亭小朝さんの落語を聴いてから歌舞伎を楽しむ趣向になっています。昼公演では落語は二席ですが、夜は一席「中村仲蔵」!そーです!昨年12月に勘九郎さんが仲蔵を演じたドラマに泣いた記憶が蘇ります。あの仲蔵を落語で聴くことができるのが楽しみでした。


劇場に入るとびっくり。客入りが寂しい。猿之助さんが言っていたけど、夜の人出が、観劇に関わらず、本当に少なくなったなぁと感じます。小朝さんもマクラでそのことに触れて笑いを誘っていました。ちなみに昼公演はわりと入っているとか。

昼公演と違うことがもう一つ。幕間がありません。落語から歌舞伎までノンストップ。これがとてもレアな環境を作ってくれるのです!なんと歌舞伎のセットの前に高座(笑)昼公演は違うそう。夜だけのお楽しみです。その後に上演される仮名手本忠臣蔵「五段目」の背景。そんな環境で話の登場人物、斧定九郎のスタイルを作った中村仲蔵の話を聴くことができるのです。

私は落語は三度目。小朝さんのお顔はドラマなどで拝見して知っていますが、落語は初めて。こんなに笑わせてもらえるなんて思っていませんでした。お客は少なくても、笑い声が絶えずアットホームな空間が心地いい。さすがプロ!ドラマの影響で、仲蔵は勘九郎さん、妻は上白石萌音ちゃん、謎の侍は藤原竜也さんで脳内再生をして楽しみました。

小朝さんがお辞儀をして終わると、なんと廻り舞台が動く!そして、そのまま「五段目 山崎街道二つ玉の場」が始まります。

江戸時代、仲蔵のアイデアで二枚目定九郎が誕生し、現代まで続いて上演され、私がそれを観て楽しんでいる。その事実がリアルに感じました。定九郎の歌六さんにものすごく感動してしまった。

歌舞伎を知らなくても、落語を通じて、歌舞伎が脈々と繋がっている事実を感じられるはずです。それにドラマが再放送されて来週月曜に後半を見ることができるタイミングというのも心憎い。面白い企画に大満足でした。

芝居は続けて「六段目 与市兵衛内勘平腹切の場」

早野勘平と言えば、猿之助さんが亀治郎としてラストのお役です。女方だったから、まさかの立役で最後とは驚きました。お相手の’おかる’は福助さん。母おかやは竹三郎さんでした。思い出深い場面です。ちなみに初めて観たのは2008年平成中村座で、勘三郎さん孝太郎さんペアでした。同座の若手チャレンジでは勘九郎さん七之助さんペアも観ました。

以来、いろんな役者さんで拝見していますが、ほとんどが音羽屋型と言われる勘平。今回、芝翫さんは30年ぶりだそう。音羽屋型で演じます。

いくつか型がある中、猿之助さんが演じたのは上方の鴈治郎型でした。上方の型は「どうしてこんなことに。。武士に戻りたい」無念や怒りが根底にあると聞きました。「色に耽ったばっかりに。。。」の有名なセリフもありません。衣装も、音羽屋が浅葱色の紋付だったのに対し、上方は地味な感じ。

また、上方は、幕切れ、息絶える直前に羽織をはおる。これは最後に武士になって死んでいく。。という現れだそう。猿之助さんは図夢歌舞伎でも上方のやり方でした。


自分が発端になり、無実の罪で追い詰められていく様を二枚目風情で美しく演じるのが江戸の型の勘平。芝翫さんはかっこよかった。初日が開けてまもないので段取りを追っているようなところもありましたが、勘平は尋常でないほど所作などの決まりや段取りが多いと聞いたことがあります。でもクライマックスに向けて、芝翫さんの気迫がすごくて気持ちが入り込むことができました。

女房おかるは初役の笑也さん。この座組で笑也さん?と驚くと同時に、おかる役をなさるのはとても嬉しかったです。私はこの女性をドラマティックな存在だと思っています。おかるに出会わなければ勘平は一緒に討ち入りができたのだろうか。。とか妄想しちゃう。おかるは勘平のために身を売る覚悟を持つことができる強く、愛ある女性。勘平が腹切をしたことを知らずに遊女となった場面が七段目です。

笑也さんは品があり美しい。でも私にはもう少し愛が欲しいところ。芝翫さんも然り。もっと深いところで繋がっている相思相愛な二人が好みでした。けど、千穐楽に向けてそうなっていくのかもしれません。時間があれば後半の進化を観てみたいなと思うくらいでした。

母おかやの梅花さん、お才の萬次郎さん、源六の松江さんがガッチリと固めています。赤穂浪士の原郷右衛門は歌六さん、千崎弥五郎は歌昇さん。歌昇さんが印象的でした。こういうお役がハマり、本当に素敵な役者さんになったなと。


先月歌舞伎座の「荒川十太夫」で猿之助さんの堀部安兵衛の切腹をたくさん観たので、また腹切なのは悲しい。でもそこには少しでも希望があると思いたい。勘平は武士戻れたのだなと。安兵衛の猿之助さんが笑みを浮かべて奈落へ沈んでいったように。。

そして、松の廊下の事件がなければ。。どの場面を切り取って観てもその想いが湧いてきます。一つの事件から始まる悲劇の連鎖。歌舞伎役者さんの力のおかげでいつもそんなふうに思えるのです。芝翫さん笑也さんが幸せになってほしかったなという余韻に、今回もやられたなぁと思うのです。

25日まで上演。落語から続けて観る企画は面白かったので、お仕事帰りに夜公演をお勧めします。

来週月曜のドラマ再放送も楽しみです。

aya


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?