好きな本の紹介 「屍鬼」

   私は本を読むのが好きだ。読書家と言う程たくさんは読んでいないと思うが、本を読んで、自分では経験出来ない世界、人間、感覚、ストーリーを知るのが好きだ。今回は、私のおすすめの本を紹介する。

 「屍鬼」小野不由美著

 私は小学生の頃から、小野不由美先生が好きで、十二国記、悪霊シリーズ、その他の本も、おそらく出版されている本は全て読破していると思う。その中でも、最もお気に入りの「屍鬼」は全5巻に渡る超大作で、学生時代の卒論のテーマも「屍鬼」の影響を受けて決めた。

 さて、屍鬼はどんな物語なのかと言うと、「人口わずか千三百人、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習と同衾する外場村。ある夏の日、山深い集落で三体の死体が発見される。二体は既に腐乱し原型を止めていなかったが、一体はまだ腐乱していなかった。その日から、村では連続不審死が起きる。深夜に越してきた家族、死ぬはずがないのに死ぬ人々、殺人か、疫病か、それとも・・・」と言うあらすじである。

 これだけ聞くと、「よくあるホラーモノか」と思われるかもしれない。確かにホラーではあるが、この物語の面白いところは、百五十人以上もの登場人物の視点から語られるところだ。村で唯一の医者、信心深い村人から大きな尊敬を集めている寺の跡取り息子、ずっと外場村で生きてきた老人たち、工場を経営する一家、一年前に外から越してきた少年、村を出たい少女、など、多種多様な人々が、彼ら彼女らの人生が反映したそれぞれの自分の考えを持ち、行動する。

    また、村の書かれ方も独特である。 小野不由美先生の書かれる「古い因習を守り外部から人を寄せ付けない村」は、その言葉から受け取るような「外から人が来たら徹底的にいじめる」とか「話すらしない」とかではない。例えば、「黒祠の島」でも「因習を守り続ける島」が出てくる。その島に行く前は、散々「嵐であってもよそ者は島に入れない」とか「よそ者はすぐに追い出される」とか、島についての情報が出される。さぞかしひどい島なのだろうと予測するが、実際主人公が島を訪ね、その島の守り神や民俗などについて島民に聞く。すると、島民は主人公に呵呵と笑って丁寧に説明する。島には宿もあり、外から派遣されてきた医者の居る小さい診療所もある。小学校と中学校は内部にあるから通えるが、高校になると外に行かなければならない。内には仕事がないから若者は外に働きに出る。もちろん、その笑顔の裏には主人公に話していない真実が隠されている。「閉鎖的な共同体」ではなく、「内の者と外の者の間に線を引いている共同体」なのだ。小野不由美先生が書かれるこういった「田舎の共同体」を、私は非常に好ましいと思っている。他所から来た者を全て拒絶すると言うのは、あまり現実的でないと思うからだ。屍鬼も黒祠の島も、内部の人間と、地域の公的施設がうまく設定されており、よりリアリティが増している。

 「内と外」というのは、屍鬼においてはとても重要な意味を持つ。村は三方を尾根に囲まれているので、村の外に行くには一本の国道を通らなくてはならない。村の外に行きたい者はその道を眺め、村の内に居たいものはその道を敵視し、村に居た人はその道から出た途端に村で起こったことなど忘れてしまう。

 登場人物たちのエゴイズムや後悔、悪いことが自分の身に起こるわけがないという勝手な妄想、見たくないものを見ないようにして怯えながらも安穏過ごす心理、それらが複雑に絡み合って、壮大な物語を紡ぎ出している。

 流刑地に居るのは誰なのか、楽園はどこなのか。読み終わった後は、村に居た人々に想いを馳せ、余韻に浸る。是非、読んでいただきたい作品である。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?