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凶器

私は今、自動車教習所に通っています。
通おうと思った一番の理由は、ドライブがしたいから。車に乗ることができれば、移動の自由度が高まり、ある程度の場所までは行くことができるようになる上、公共交通機関利用時のように時間を気にする必要もなくなります。
何より、自分の力で、自分の足で、会いたい人に会いに行ける、観たい景色を観に行ける、それってすごく魅力的だと思ったんです。
“免許が取得できたら、海沿いをドライブしたい“
“首都高の夜景もいいな“
“いつか大切な誰かを隣に乗せて、一緒に旅に出たいな“
そんな風に、妄想ばかりが広がっていきました。
まさに、脳内お花畑状態です。

しかし、実際に通い始めてみたら、私の想像していたような世界は見えにくい環境でした。
最初の学科の授業で先生が仰っていた言葉が記憶に色濃く残り、頭にこびりついています。
『便利なものは凶器になる』
お話を聞いて、冷や汗をかいたのを覚えています。

「“交通事故遺族“って調べてごらん、いっぱい出てくるから。
事故を起こした側の人間は刑務所に入って賠償金を支払って終わりかもしれない。
でも遺された人はどうだろう。
どんなに高額なお金をもらったって、大切なその人はもう戻ってこない。もう会うこともできない。
どんな気持ちだろう。
“殺してやりたい“ “同じ目に遭わせてやりたい“そう思うでしょう。
もし俺の大切な奥さんや子供がそんな目に遭ったら、俺だって何するかわからない。
でもそんなことしたら法に裁かれて、刑務所に入れられてしまう。だから何もできない。
大切な人を殺した奴を一生恨みながら、大切な人を失った悲しみを背負いながら、それでも前を向いて生きていかなきゃならない。
だからさ、みんな“免許取りたい“って簡単に言うし、運転したいとか、身分証明書が欲しいとか、理由は様々だと思う。
教習さえ受けていれば免許なんて簡単に取れるよ。
でも、車を運転するということがどういうことなのか、よく考えて欲しい。
軽く考えずに、自分の命もそうだけど、他人の命を預かっていることを忘れないでほしい。
たとえあなたにとって嫌いな人でも、知らない人でも、その人は誰かの大切な人だということを覚えておいてほしい。
車って便利だけど、簡単に人を殺せる凶器なんだよ。
自分の身を守るためにも、誰かにとっての大切な人を守るためにも、きちんと教習に取り組んで欲しい。」

ハンドルを握るのが怖くなりました。
もしかしたら、誰かの大切な人を殺してしまうかもしれない。
自分の助手席に大切な人を乗せていたら、自分の大切な人のことも守れないかもしれない。
妄想にうつつを抜かして、すっかり忘れていました。
車は、一番致死率の高い凶器だということを。
先程も学科教習を受けておりましたが、受けながら恐怖に押しつぶされそうでした。
最近は、何をしていてもそのお話が頭に浮かんで怖くなります。
INFJ提唱者型特有の、心配性で考えすぎてしまう性格が顕著に現れています。
自分の大切な人も、誰かの大切な人も守れるように、気を引き締めて臨まなければならないと思う今日この頃です。

ハンドルを握るということに責任を持てるドライバーを目指します。
いつか、自分の妄想を現実にするために。

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