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#65 ブリンク 182『ワン・モア・タイム』

服部さんへ

 “テイラーズ・ヴァージョン”ですね。改めて、音楽業界って汚いなあと、今回の再録騒動で感じていたところでした。そして何より、テイラーって、強くて、まっすぐで、人として素敵だなあと。しかも今作で、発売24時間ストリーミング数の最多記録を達成とは、まったくもって恐れ入ります。
 忘れかけていましたが、そもそもテイラーって、カントリーなんですよね。そのカントリー色を完全に払拭したのが、『1989』だったわけで。僕は、いわゆる80'sポップをどうも好きになれないのですが、今作で彼女のフィルターを通して聴くと、妙に耳に馴染じんで心地がいいんですよね。今回、久し振りに、しかもニュー・ヴァージョンで聴いてみて、改めてそのことを実感しました。1989年に生まれた、25歳(発売当時)のアーティストが解釈した80'sポップが、同年にすでに成人していたオジサンにマッチするという不思議。
 個人的には、デラックス盤でのケンドリック・ラマーとのコラボが聴きものでした。しかしなんというか、女性には、かないませんなあ……。

ブリンク 182『ワン・モア・タイム』

 アルバムに先行して発表されたタイトル曲を一聴した時、泣きそうになった。英語だから、歌詞の意味はなんとなくしか理解できない。だけど、なんとなくわかれば十分。なんて素晴らしい曲なんだ。バンドの来し方に想いを馳せるようなMVも、しかり。全裸で街中を走り回っていた、おバカなあんちゃんたちは今、まさに酸いも甘いも噛み分ける大人になり、こんなにも美しい地平に立っていたのだ。

 な〜んて、美談だけ書かせて終わるようなバンドではないのですよ、ブリンク 182はやっぱり。こっちのMVではラモーンズに扮して、彼ららしくふざけ倒しながら、オマージュを捧げている。もう最高だ。

 ここに挙げた両極端な2曲の圧倒的な完成度の高さが、オリジナル・メンバー3人が揃った作品としては12年ぶりとなる、今回のニュー・アルバムの出来映えを物語っている。
 活動休止/再開、脱退/復帰、飛行機事故(乗客乗員6名のうち4名死亡)、癌闘病など、紆余曲折を経て彼らは、大出世作『エニマ・オブ・アメリカ』を彷彿させながらも、バンドの“今”を伝えるという、傑作ポップ・パンク・アルバムを作り上げた。全17曲、あっという間の幸福過ぎる45分を、浴びるようにご堪能あれ。
                              鈴木宏和


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