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#51 シガー・ロス『アゥッタ』

服部さんへ
 “ラシンド”で思い出しました。僕の好きな吉井和哉の曲に「母いすゞ」というのがありまして、<パトリオットミサイルをアプリコットミサイルと言い間違えた〜。ナスカの地上絵をナチスの地上絵と言い間違えた〜。おひつのご飯を棺のご飯と言い間違えた〜>と歌われております。ちなみに僕の奥さんは、ハクビシンをハクビジンと言い間違えた〜。ダゾーンをダズーンと言い間違えた〜。
 それはさて置き、キアナ・レデです。初物でしたが、ほのかに憂いを帯びた、ジェントルでしなやかな歌声がいいですね。ここでご紹介いただいた、エラ・メイとコラボしているのも納得です。僕もいわゆるガールズ・パワー全開ものには、ちょっと尻込みしてしまうところがありまして、この手のアクトにはお近づきになりたくなります。
 ……と思ったのですが、ちょっと一筋縄ではいかなさそうですね。この放送禁止ワードの連発は、なんなんでしょう。ある種のツンデレってやつ? それともプレイですか? 痛い目を見ないように、適度な距離感を保ってお付き合いできたら幸いです。

シガー・ロス『アゥッタ』

 私事続きで恐縮なのだけど、この際。シガー・ロスの音楽を流していると、妻から「宗教音楽みたいで怪しい」と言われる。ちなみにブライアン・イーノは、「宇宙を泳いでいるような変な音楽」だそうだ。
 それもさて置き、ずいぶんと僕の首が長くなっていた気がしていたら、なんと10年ぶりのニュー・アルバムとなる。これがもう、待った甲斐がありもあり。1曲目から、涅槃へと連れ出されるような幻想的でドリーミーなサウンドと、やはりこの世のものとは思えないヨンシーの歌声に聴き惚れていると、気づけばアルバムが終わっている。その繰り返しで、しかも聴き込むほどに味わいが増し、新たな景色が見えてくる。以下はリード・シングル曲。7分超えだけど、これがまたいいのよね〜。

 『残響』というアルバムのような、“明”“陽”の要素を押し出したシガー・ロスも、それはそれで好きなのだけど、僕はこのようなポジティヴもネガティヴも超越した、どこまでも深遠な美しさを体現するシガー・ロスを愛している。僕にとっては、自分の心持ち次第で、祝祭にも歓喜にも安息にも鎮魂にもなり得るのが、彼らの音楽なのだ。パートナーにとっては怪しい音楽でもね(笑)。
 ただただ、身も心もどっぷり浸かっていたい一作。たぶん、このように感じるリスナーの脳には、麻薬を摂取した時に近い脳内物質が出ているのではないだろうか。そんな気がしてならないのだ。不謹慎な締めで失礼!
 あ、現時点で入手できる輸入盤は高額だけど、9月から正式にフィジカル・リリースされるようなので、手元に置きたい熱心なファンは、しばしお待ちを。
                              鈴木宏和
 


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