見出し画像

#59 ポスト・マローン『オースティン』

服部さんへ

 そう言えば以前、M新聞の巨匠Kさんと上原ひろみの話題になり、こんな会話をしたことがありました。
「プログレっぽい演奏をする彼女が好きなんですよ」(僕)
「なるほど。上原ひろみはキース・エマーソンだからね」(Kさん)
「そう! それなんです!」(僕)
 というわけで、いつもそういうプレイに期待している自分がいるのですが、まずはシンセを演奏している点が僕には新鮮で、いたずらっぽい笑顔で指を弾ませている彼女の姿が目に浮かんできました。
 オープナーこそ優雅な趣ですが、来ました2曲目。シンセをブリブリ言わせて暴れてくれています。個人的には、途中でYMO「東風」みたいになっていくところも好きです。そして5曲目。こちらはピアノとシンセの両刀使いも、実にお見事。
 コンピューター音かトイピアノかっていう、ユニークな出だしも印象的な最終曲まで、楽しませていただきました。いやしかし、リズム隊もトランペットも名手揃いなのは、さすがですね。

ポスト・マローン『オースティン』

 前作アルバムの作風やら、今作からのシングル曲「モーニング」「ケミカル」の曲調やら、予兆があったと言えばあったし、ポスト・マローンにロックのバックグラウンドもあることは知られている。いやしかし、これはもう正真正銘のポップ・ロック・アルバムだ。
 ラップは、ほとんどなし。全曲、本人がギターをプレイしている。ビッグでキャッチーなメロディでシング・アロングを誘うアンセムも、軽快なダンス・チューンも、甘美なバラードもお手のものとばかりに、ことごとくツボを押さえた佳曲が並ぶ。起伏を抑えた、ラップ寄りのヴォーカルを聴かせる「テキサス・ティー」のようなトラックが、逆に新鮮に響くぐらいなのだから、恐れ入る。ラスト2曲「グリーン・サム」「ラフ・イット・オフ」でのリリカルなアコギ演奏と、情感ダダ漏れの歌唱に至っては、もはや泣くしか術がない。

 それにしても、こんなにいい歌を簡単に作って歌われてしまった日には、正統派シンガー・ソングライター(という表現が適切かわからないけど)もバンド勢も、立つ瀬がないというものだろう。
 正統派ヒップホップ・ファン(という表現が適切かもわからないけど)が、今作をどう受け止めているのか気になるところではある。いちロック・ファンの僕は好きだし、また聴くだろう。ともあれ、今はこの新世代の才能のきらめきに、ただ見とれているしかなさそうだ。
                              鈴木宏和


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?