#74 エミリー・サンデー『How Were We To Know』
エミリー・サンデー『How Were We To Know』
歌から伝わるエミリー・サンデーのまっすぐな眼差しが大好きだ。それは、2012年の1stアルバムから変わらないこと。同時に音楽に対して野心的な挑戦を大事に、実験的なサウンドにも果敢に取り組んできた。そこに違和感を抱いたことも正直あるけれど、5作目となる今回は、2ndアルバム『ロング・リヴ・ジ・エンジェルズ』で組んだマック&フィルを再び起用した。
彼らのサウンド・プロダクションのことを彼女自身は、「風変り」といっているようだが、トラックありきやビートばかり際立つ曲ではないのがいい。たとえば、③『Lighthouse』のようにレゲエ調から始まり、「私を導いて、私を見つけて」と繰り返す終盤では一気に演奏が変わって、歌に寄り添うようなギターの伴奏とか、「風変り」というより、歌の景色を描いているようなプロダクション。それが当然だけれど1曲ごとに異なるので、アルバム全体としてのヴァリエーションにもなっている。
それでも歌が主役。「共感される歌が歌いたい」との想いから医学の道を中断してまでも音楽に人生の舵を切っただけに、わかりやすくもあるけれど、咀嚼するほどに深まる歌詞は、とりわけ強く伝えたい言葉を繰り返す特徴がある。それがよく表れているのが最後の『Love』という曲。まるで祈りを唱えるように「ラヴ」を繰り返し歌う。その「ラヴ」をどう受け止めるかは、聴き手それぞれだけれど、なにが愛なのか、なにが大切なのか、誰もが足を止めて考える機会にはなってくれるはずだ。
私は『True Colours』から『End Of Time』、『Love』と続く終盤に涙が溢れてとまらなくなってしまう。心が通じ合う歓びっていいなぁと思う。
服部のり子
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