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進化していたテストパターン:アプレ「アプレミディ」のすべてを視聴

先日、伝説のテクノポップ・ユニット「テストパターン」について投稿させて頂いた。

投稿中で述べている通り彼らのディスコグラフィーは「アプレ・ミディ」というアルバム1枚のみである。
しかし、セカンド・アルバムこそ陽の目を見ることは無かったものの(その構想もあったかどうか定かではない)、彼らの活動は1982年10月の「アプレ・ミディ」後も一定の期間続いており、現在でもYouTube上でその活動の片鱗を認めることが出来る。
先日の投稿を機会に、その痕跡をくまなく探し回った結果、4つの作品が何らかの形で発表されていたことが判明した。そこでこの4作品(「アプレ・ミディ」以降ということで「アプレ・アプレ・ミディ」と呼びたい)について簡単にレポートしてみたい。

結論から申し上げると、「アプレ・ミディ」以降も「テストパターン」は次のフェーズに向かって着実に進化していたのだった。
惜しいことに彼らが所属する「¥ENレーベル」そのものが1985年ごろに解散してしまい、レコーディング活動の基盤を失うことになる。もしそうでなければ、英国エレポップ「バグルズ」の伝説のセカンドアルバムのような純度の高い大傑作が生まれたのかも知れない(※妄想です)

¥EN MANIFOLD VOL.1

1983年、YENレーベルの才能を集約したコンピレーション・アルバム「YEN MANIFOLD VOL.1」に、「アプレ・ミディ」後のレコーディング作品が2曲収録されている。
まずもってこのアルバム自体、今聴くと恐ろしい程クオリティが高い。
参加アーチストは、西海岸の香り溢れるクールなポップユニット「Interior」、ゲルニカ率いる鬼才作曲家「上野耕二」そして「テストパターン」
ここで発表されたのは「RYUGU」「FRIDAY」の2曲、いずれも「アプレ・ミディ」のテイストを維持しつつ「正常進化系」と呼べるような変貌を遂げている。
「RYUGU」で印象的なのは、リズムマシン(808)による複雑かつ軽快なグルーブ感、「海底都市のディスコ」のような摩訶不思議な空気感を醸し出すイントロ、やがて幻想的なメロディラインが呼び覚まされ、情感あふれるシンセ・ストリングに包まれるという、不思議な高揚感に満ちた楽曲に仕上がっている。
FRIDAY」は「アプレ・ミディ」の「Sea Breeze」「Ocean Liner」の流れを汲むエキゾチックな作品。バックに絶えず流れる電子的なジャングル音はマーチン・デニーへのオマージュだろうか?メロディもさりながら、矩形波のような太いベースラインがクセになる。

TOKYO ロックTV出演

次はTV出演である。
以前の投稿でも触れたが、テストパターンの比留間氏は深夜のロック番組に細野晴臣に紹介を受ける形で出演したことがある。
この時はファースト・アルバムからすでに2年以上経っていたようだが、六本木の「インクスティック」でのライブパフォーマンス等、積極的な活動が続けられていた様子が窺える。
この出演時、名曲「雨に唄えば(Singin In the Rain)」のテクノカヴァー、および「EVELYN」という名の外国人女性ボーカルを迎えた新しいスタイルでの新曲MVを発表している。

その曲のタイトルが「私の少年は日本人」
この「EVELYN」自ら「作詞」したという、「スシ」「サクラ」「ゲイシャ」「カブキ」といったキッチュなワードが散りばめれた壊れた日本語が、軽快なテクノ・ビートとマイナー・コードに乗って不気味に繰り返される、何ともシュールな楽曲だ。
比留間氏自身はセットのTVモニタから顔を覗かせているだけ、というのも実にミステリアスだ。

完全妄想だが、もしセカンド・アルバムが予定されていたとしたら、「EVELYN」をフィーチャした不思議感覚の男女テクノポップ・デュオとして展開されていたのではないだろうか?

「雨に唄えば(Singin In the Rain)」の方もまた面白い。アレンジはあえて無機質にまとめているが、その分ボーカルがなかなか聴かせる。特に英語の発音がナチュラルで、原曲に対する愛着が伝わって来る。
MV中絶えず流れるMSX風のグラフィックスもご本人の制作だろうか?

寡作ながら、常に新しいことにチャレンジしていた

以上4曲が、「アプレ・ミディ」以降の「テストパターン」のすべて(私がアクセス可能な範囲内で)という事になる。
これらを聴く限り、「アプレミディ」は出発点に過ぎなかったのではないか?という印象を受ける。
少なくとも、繰り返しに飽き足らず、常に新しい感覚を求める実験精神、探究心を感じることが出来るのではないだろうか?
それだけに、一定の期間のみで活動が収束してしまった事が惜しまれるユニットだ。

幻の六本木パフォーマンス

最後に、極め付けのレアな記録を紹介したい。

上記のTV出演中でも予告されている通り、この時期に日本の音楽シーンの最先端を走っていた六本木のライブハウス「インク・スティック」でパフォーマンスが行われている。
前回の投稿で、この時の内容については何の記録も情報もなく、幻のパフォーマンスだった、というようなことを書いた。

ところが、なんとYouTube上に、この時の様子を録音した2分ほどの短い音源が上がっているのだ。
演奏されていたのは「Sea Breeze」
と言っても、「アプレ・ミディ」のアレンジとは大幅に異なり、ハイテンポでオモチャ感覚が溢れるまったく新しいバージョンになっている。
先に書いた通り、実験精神と遊び心を忘れなかった人たちだったことを偲ばせる。

また、この動画のキャプチャー画面には雑誌のインタビューと思しきものが使われているのだが、断片的に文字を拾っていくと、自分たちの音楽の原点は「オルゴール・ミュージック」と表現されていて、とても納得できる。
「オルゴール・ミュージック」は電子楽器が出現する遥か以前から発案された「元祖テクノミュージック」と言って良い。前稿でも述べたが、いたずらにリッチを目指すのではなく、少ない音数の繰り返しで耳を和ませる様々な工夫は、「テストパターン」の音作りのベースになっている。
こんな事を「裏付ける」希少な資料といったところだろうか。
グラビアから窺えるファッションも80年代の香りがして、懐かしいものだ。

以上をもって「テストパターン」について「ほぼすべて」の活動の遍歴を洗い出せたと思う。
なので、(新しい資料が出現しない限り)彼らについてこれ以上言及することも出来ず、「テストパターン」について書くのは本稿が最後となるだろう。

P.S

最後に、比留間雅夫氏の消息について、私の駄文を読んでいただいた関係者の方から貴重な情報が寄せられたことをここで報告させていただきます。
大変残念ながら、「テストパターン」主宰の比留間雅夫氏は、数年前にすでに他界されていた、との事です。
これによって、私が妄想していた唐突の再結成や新作などはあり得ない事となってしまいました。
その代わり、電子メディアの発達により彼らの珠玉の作品群は永遠にリスナーの耳を癒してくれるでしょう。

遅ればせながら、謹んでご冥福をお祈りいたします。

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