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ロバート・パーマー / Robert Palmer Pressure Drop 1975

ロバート・パーマーのソロ・アルバム第2弾

前作品においてローウェル・ジョージが単身で全面的に参加し、深めた親交からいよいよリトルフィート本隊が完全バックアップ!

前作の「Sneakin' Sally Through the Alley」で2人は曲のアイディアを綿密に交わしていたようだ。
ロバート・パーマーはローウェル・ジョージのスライド・ギターを心の底から惚れ込んでいた。
またローウェル・ジョージもロバート・パーマーの品格のある歌をリスペクトし始めた。

アイランドレコード社長のクリス・ブラックウェルは今回もアメリカ録音を積極的に推進する。

また違った側面のロバート・パーマーの歌を聴いてみたい!
マッスル・ショールズ・ホーンズ、モータウンの伝説的ベーシスト、ジェームス・ジェマーソンとR&B屈指のアレンジャーのアーバン・ソウルのセットを初めて収録。

曲目

Give Me An Inch
Work To Make It Work
Back In My Arms
Riverboat
Pressure Drop
Here With You Tonight
Trouble
Fine Time

曲目感想

Give Me an Inch

クラビネットとジーン・ペイジによるストリングスとアレンジによるメローなイントロ。前作には全く無い雰囲気だ。ミディアムテンポのフィラデルフィア・ソウルのエッセンスを凝縮させている。

冒頭から派手にはいかない。前作のほとばしる情熱的な歌唱からぐっと一歩引いたボーカルも聴かせ、引き出しがまだある「ソウル・シンガー」に徹している。表現力や歌も前作より上達している。

Work To Make It Work

異なる2声のリズムのボーカルのポリリズムと民族打楽器とコンガが混じる正統的アフリカン・ドラム・ビートがかなり本格的だ。

エド・グリーンの抑制されたドラムが入ってくる。中盤からはマッスルショールズのホーンとサックスのソロもボーカルと伴ってくるが、ホーンセクション全て抑え気味に最後まで展開していく。

1曲目のメロー、次に雰囲気が異なるストイックな民族音楽を構築し、その次のメローなソウル・ナンバーへの橋渡し的な存在だ。
※1~3曲目の流れは前作と同じ趣向を踏襲している。

Back In My Arms

一転して甘美なストリングスとフルートが合わさったのメローなサウンドを展開。

ジェームス・ジェマーソンがベースで参加している。バッキングに徹した抑制された楽器陣にロバート・パーマーの歌が前面に来る異なった魅力がある。基地から流れるラジオを聴いて育ったマルタ時代には、モータウンのヒット曲も相当な数を親しんでいたのだろう。

Riverboat

ここでいよいよリトルフィートが出てくる。

空間系のコーラスでフェイザーとサスティンを得るためのコンプレッサーの2つのエフェクターを経由したシングル・コイルのフェンダーのストラトキャスター。ローウェル・ジョージのギター・サウンドはリトルフィートのトレードマークになっている。

前作のミーターズと違うのは、ややソリッドで緊張感がある仕上がりになっている。スローなテンポで忍び寄ってきてタメを大きく持たせた仕上がりになっている。

Pressure Drop

海軍情報将校だった父親が駐屯していたマルタ共和国(南ヨーロッパの共和制国家。イギリス連邦および欧州連合の加盟国)の陸軍基地でロバート・パーマーは10代の半ばまで育った。
そこはチュニジアの海岸にも近かったため、ラジオから流れるアフリカの音楽も同様に親しんでいた。

トゥーツ&ザ・メイタルズのカバー。レゲエ・ナンバーという切り口での解説はこれまでしばし見受けられる。

しかし、マルタ時代での経験を加味すれば、レゲエでもあるがむしろアフリカン・リズムと言った民族音楽という側面でアプローチしているのでは無いだろうか?

リッチー・ヘイワードのドラムは、フロアタムを強調しておりレゲエと正反対に重たい印象を与えている。また全員のコーラスもバス(男声の低音)がメインだ。

よく聴くと「フラジオレット」という吹奏楽器(小さい笛)が鳥のさえずりの様でアフリカの雄大な大陸に灼熱の太陽を避ける木陰をイメージできる。

解釈な拡大すれば、ジャマイカ音楽が発端となるアイランド・レコードのクリス・ブラックウェルへの敬愛を込めたアンサー・ソングなのだと思う。

ロバート・パーマーの筋肉質でコブシとシャウトが効いたボーカルも魂がこもっている。直球のレゲエでは無い自身のルーツを示した上での屈指のアレンジだ。

Here With You Tonight

ロバート・パーマーがソロ・デビュー前に在籍していたグループ、ヴィネガー・ジョー時代に一緒にバンドを組んでいたピート・ゲージという人物と共作したナンバー。

リトルフィートのオリジナルと思ってしまう程のアレンジに仕上がっている。しかし、こうであって欲しいとばかりにロバート・パーマーのボーカルからはやる気がみなぎりかつ前のめり気味だ。歌の力んだ感じからしても嬉しさが隠しきれていない。

Trouble

1972年のリトルフィートの「Sailin’ Shoes」に収録されたナンバーをバンドはセルフ・カバーした形だ。贅沢な本家へのカラオケ生演奏リクエスト、いやそこは大幅に曲調を変えている。

オリジナルはアコースティック主体のフォーキーなナンバーだが、これは重低音で粘りの有る完全なバンド・サウンドに新装している。

おとぼけた感じの跳ねたビル・ペインのピアノとリッチー・ヘイワードのタメの効いた絶妙なグルーブからのローウェル・ジョージのサスティンが長めのスライド・ギター。このアレンジで歌ってみろと挑発しているかのようだ。

贅沢な各パートがミルフィーユ状態に重なる独自のグルーブが最高だ。
曲が短いのでもっと長くジャムセッション的に冗長にグルーブに酔いしれたいほど。
この新装アレンジしたカバー曲を聴いて分かるのは、ロバート・パーマーとリトルフィートはわずかな時間にも関わらず、瞬時に溶け込んで理解し合っていることだ。双方の相性が良くサウンドが以前からあったバンドの様にハマっている。

Fine Time

継ぎ目無く前曲のテンションを維持したまま曲に流れていく。
サビ部分の女性コーラスが重なる場面がクールだ。ビル・ペインのピアノとオルガンとケニー・グラドニー のうねるベースに無言の煽られ、ロバート・パーマーは魂のシャウトをする。

グルーブの渋滞麻痺が起こっている。前作とは違った粘りのある足腰で魅力を解き放ち、あっという間に作品が終わってしまう。。

総論

ローウェル・ジョージがファーストとこのセカンドに唯一関わっている。
リトルフィートのメンバー全員とは1975年アルバム「Feats Don't Fail Me Now」の制作中に出会った。「Pressure Drop」は、アルバムのレコーディングの合間に挟まれて完成された作品になっている。

2作品は地続きで連なる作品とも言えて、2年がかりで夢の競演を完成させた贅沢なプロジェクトとなっている。

伝説のベーシスト、ジェームス・ジェマーソン
またベーシストのジェームス・ジェマーソンというモータウンレコードのスタジオ・ミュージシャンで1971年になって初めてクレジットされている。

1972年にシカゴのデトロイトからロスアンゼルスに移転し、その翌年の1973年にモータウンから離脱している。今回のオファーはタイミング的には幸運だった言える。

ジェームス・ジェマーソンのベースの弦は太いヘビー・ゲージを張り、弦高を高くしている。収録されいる「Back in My Arms」の冒頭から鳴るベースの音を聴くと、「ボン、ボンッ」と伸びが無いアップライトのベースの様な音だ。さらに弦はほとんど張り替えないので、年季の有る音ともいえる。

ロバート・パーマー及びプロデューサーのスティーブ・スミス、ミキサーのフィル・ブラウンなど含めた制作サイドからはこの「レトロなベース音」を敢えて求めていたのではないだろうか。

そんな演奏スペック事情を含めてロバート・パーマーは作曲したと思うとリトルフィート以外でもどうしても一緒に演奏したかった人物にピンポイントでアタックしていて、それが作品の好プレーに繋がっていると作品を通して思ったことだ。

アイランドレコードの社長クリス・ブラックウェルは彼の虜だった

クリス・ブラックウェルはデビュー・ソロの「Sneakin' Sally Through the Alley」と本作の2枚のアルバムを「見落とされたアイランド・クラシックス」と呼んだ。

初めて出会った時のロバート・パーマーについて「彼の声に目がくらんだ」と言っている。人生で一体歌で目がくらむ瞬間なんて何回訪れるのだろうか?
そんなとことん惚れ込んだ彼に好きなミュージシャンやグループを自由に指名して音楽を表現して欲しかった。後悔は決して望まなかった。

こんな寛大な音楽のパトロンに出会わなければ、夢の実現はしなかった。

またファーストとセカンドの2作品は地続きで連なる作品とも言えて、2年がかりでアメリカ・ミュージシャンの夢の競演を完成させた大河ドラマのような贅沢なプロジェクトとなっている。

生演奏を重視し、余計な装飾をしなかったことで時代を超越した色褪せないグルーブの宝石箱とも言える奇跡の名盤


終わり

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