見出し画像

Low Cost but HighEnd Sound Systemの構築~その3 パワーアンプ

なぜアンプの自作?

ローコストなD級アンプが簡単に手に入るようになりました。D級アンプは、解像度が高く、気難しいスピーカーでもうまく鳴らすことができる利点があります。しかし、弱音部の表現とリアルな音色の再現が弱いと感じます。オーケストラなど良い感じなのですが、ボーカルの表現には不満が残ります。高級感ある音質を得るには、やはりアナログアンプ(AB級又はA級)が必要と考えています。市販でAB級でローコスト・高音質なアンプというのはなかなか入手できません。いっそのこと自作してみようというのが動機です。

アンプって自作できるの?

自作なんかできないと思う方は多いと思います。しかし、道具揃え、はんだに慣れると何とか作れるものです。
はんだの経験が少ない人は、ユニバーサル基板と不要な安い抵抗などで、ラウンド(銅の部分)をはみ出さないような練習すると良いでしょう。
どうしてもユニバーサル基板での自作は避けたい人は、アンプキットで作ってみるのも良いかもしれません。
ここでは、ハイエンドサウンドを目指すので、コンデンサ及びその配置、アンプICの選定にこだわり、アンプIC、コンデンサ、抵抗、ユニバーサル基板からアンプ基板を作っていきます。

必要な道具

①はんだごて
 温度調節がはこて先交換が可能なはんだごてを使いましょう。
 下の写真のようなはんだごてセットはamazonで数多く見つかります。
 だいたい¥2000前後だと思います。
 電子回路で使う”こて先”は、最も先の細く尖ったものが良いでしょう。

はんだごてセット

② ワイヤーストリッパー
 AWG10(5.5sq)~AWG22(0.3sq)のワイヤーをストリップできると
 幅広く使えると思います。(リンク1

ワイヤーストリッパー

③はんだ
 Sn60%/Pb40%のものが良いでしょう。
 はんだの熟練者でない限り、音響用はんだは使わないように
 しましょう。
④はんだ吸取器
 はんだを乗せすぎたときに吸い取ります。
 ユニバーサル基板のラウンド(銅の部分)からはんだがはみ出して、
 他の配線と導通してしまうときなどに吸い取る必要が出てきます。
 はんだごてセットに付属している場合は、付属品でも十分です。

はんだ吸取器

⑤はんだスタンド
 なくとも何とかなりますが、あれば便利です。
 上の写真のようにはんだごてセットについてくるものでも十分です。

作業を始めると時々こて先をきれいにしたくなります。その場合は、
水を含ませたティッシュにこて先をこすりつけるようにします。
(本来は専用のスポンジを使うのですが、ない場合はティッシュで十分)
作業前には必ず準備をしておきましょう。

⑥電動ドリル
 アンプ基板を入れる箱に穴を開けるために使います。
 電池式やAC接続のミニドリルでも使えると思います。
 DIY店などで¥2000程度のもの販売していると思います。
 ドリルビットは穴あけサイズに合わせて買い足せばよいです。

自作に自信がない方には(アンプ基板キットを使う場合)

アンプ基板キットを使うと、ある程度電子回路の知識は必要になりますが、基板の組立配線はかなり楽にできます。成功確率も高いです。
より質の良い部品を用意しておいて、組立時に付属のものと交換して取付けると音質向上が図れます。プリント基板の穴(スルーホール)位置の関係で部品の選択肢は少なくなりますが。。。
大概のキットはボリュームを付けるようになっているのがデメリットです。
ここでは取り上げませんが、以下のキットは比較的使い易そうです。
しかも、安い!
aitenndo ★7279★パワーアンプキット [K-7297B] ¥750
カップリングコンデンサ 0.22uFは 1uF(最低でも0.47uF)に変更した方が良いでしょう。
基板を読み取ることが出来ればボリューム無しで使うこともできそうです。

ユニバーサル基板で作るパワーアンプの構想

できるだけコストをかけず、できるだけ容易に高音質のアンプ自作をしようと、以下の考え方で計画します。
① 100均で入手可能なボール紙BOXをキャビネットにする。
  ・安価
  ・自作に慣れない人でも穴あけ加工が容易
  ・種類が多く、サイズ・デザインなど選び易い
  なお。問題点は環境ノイズへのシールド性能がないことです。
② 車載用アンプICを使う。
  ・車載用アンプICは音質の良いものが多い。
   TV等用途が多くメーカーが力を入れて開発いるのではないか。
  ・単一電源(つまり+電源だけで良い)のため、
   ACアダプタを電源にできる。
  ・少ない外部素子でアンプ回路を構築できるので、環境ノイズに強い。
   ボール紙BOXの欠点を補える可能性が高い。
  ・安価なものが多い
③ ACアダプターを電源とする。
  ・安価
  ・入手性が良い
④ ボリュームは無しとする。
  ボリューム機能はプリアンプに任せる。
  アンプICの入力インピーダンスが低いので、ボリュームによる
  音質劣化が大きくなるためです。

アンプICの選定

入手性が比較的良く、安価で、音質面で評判が良い
 TDA7297 ステレオ、片チャンネル15W ¥579 
とします。モノタロウで入手しましたが、マルツ・オンラインなどでも購入できます。
データシートは以下。

ACアダプタの選定

TDA7297のデータシートによると
電源入力16.5Vで8Ω負荷に対し最大15W出力
となっており、この時、片チャンネルに流れる電圧/電流は、11V/1.37A
つまり、最大出力時に必要な電源の供給電流は、最低でも2.8A。
以上から、
特性インピーダンス8Ωのスピーカーの場合
ACアダプタは、
  16V/3A以上 (秋月電子通商で、16V/3.75Aのものが¥2380
のものを使う。
特性インピーダンス4Ωのスピーカーの場合
  12V/6A
が理想であるが、入手性を考え
  12V/5A (秋月電子通商で、12V/5Aのものが¥2380
のものを使う。

カップリングコンデンサ

いきなり難しい言葉が出てきますが、RCA入力コネクタとアンプICの入力ピンの間に直列に挿入しなければならないコンデンサで、音質への影響が大きい部品です。
TDA7297のデータシートによれば、
入力インピーダンス 30kΩ (Typ.)
です。このインピーダンスとカップリングコンデンサでハイパス回路を形成してしまいます。
レベルが-3dBとなる周波数をfとすると
f=1/(2πRC)
となる。
R=30kΩ (=30000)
重低音(~20Hz)までフラットな周波数特性を得ることを考え、
f=10Hz
とすると
C=0.53uF (=0.00000053)
となる。
以上より
カップリングコンデンサは 1uF以上とします。
出来れば、高域特性の良いポリプロピレンフィルムコンデンサを使いたい。
手持ち品には
WIMAのポリエステルフィルムコンデンサ MKS2  1uF
ポリプロピレンフィルムコンデンサ 0.47uF(メーカー名不明)
があるので、これらを並列使用します。

電源用コンデンサ

ACアダプタのスイッチングノイズを削減し電荷を蓄え、早い応答でアンプICに電流を供給するコンデンサです。高音質化を図るには、アンプIC、カップリングコンデンサに並ぶ重要な部品です。
もっともアンプICに近いところには
フィルムコンデンサ 0.1uF
次にアンプICに近いところには、高級なオーディオ用電解コンデンサ
ニチコン MUSE KZシリーズ 25V/220uF
と低ESRの電解コンデンサ
東信工業 UTWRZシリーズ 25V/ 330uF
を並列に。
ややアンプICから遠いところには、
MUSE KZシリーズ 25V/1000uF×2 及び
UTWRZシリーズ 25V/3300uF
を並列に。
トロイダルコイルを挟んで、
ACアダプタに一番近いところに容量の大きい電解コンデンサ
標準オーディオ用の
ニチコン FWシリーズ 25V/4700uF
を使用します。

パワーアンプ回路図

TDA7297のデータシートにある回路図からカップリングコンデンサと電源用コンデンサを変更しました。今回のパワーアンプ回路図は、以下のPDFとなります。信号入力側は、2芯シールド線も使えるように考えています。

ユニバーサル基板実装

あまり最適とは言えませんが、以下に実装資料を示します。
TDA7297の足は曲げてユニバーサル基板に合わせています。

実際の基板写真は以下です。
我流で作成しているので、汚い(はんだも下手です)基板ですが、参考になると思います。

パワーアンプ基板(表)
赤と黒の線は、LEDにつながっています。
パワーアンプ基板(裏)
(汚い出来でごめんなさい)

キャビネットへの実装

ダ〇ソーのボール紙BOXを使用。磁石で蓋が閉まるので便利。
少し大きめのBOXを選びました。放熱フィンを背の低いものにすれば、もっと小さいBOXでも十分と思います。

キャビネットへの実装

試聴

使った試聴機器は以下。
音源:PC(Linux)+FX-Audio- FX-04J(USB-DAC、オペアンプ交換済み)
プリアンプ: FX-Audio- TUBE-00J (オペアンプ交換済み)
パワーアンプ: 比較試聴機 FX-Audio- FX-202J
スピーカー: MusicaNote  SK-NW08L(キャビネットキット)に
       ONTOMO MOOK(2021年発売)に付属のONKYO OM-OF101
       を搭載したスピーカー
スーパーツィータ: MusicaNote S-STW201

FX-202Jでの試聴

FX-202J(旧式)は、長らくお蔵入りしていたが、音質比較のため久々に引っ張り出した。高音質で有名なTriipathのTA2020-20というパワーアンプICを使っている。基本はD級アンプなのだが独自の方式でアナログアンプに近い音にしているらしい。
試聴してみる。解像度、情報量は申し分ない。
D級アンプにしては高域の伸びが良い、低音も素晴らしく、各楽器の分離も悪くない。マッ〇ントッシュのアンプより優れているという人もいるという逸話は納得できる。オーケストラや器楽曲を中心に聴く人には合うと思う。
一方で、ボーカルの微妙な表現、ホールエコーの表現については、やはり不満が残る。

本アンプでの試聴

まずは、16V/3.75AのACアダプタで聴いてみる。解像度、情報量では若干FX-202Jに譲るが不満なほどではない。中高域は切れが良く、各楽器の分離も良い。高級感のある音である。しかし、低音の量感には少し不満が出る。ここで、12V/5AのACアダプタに変えて試聴すると、低音の量感が改善。ACアダプタ定格電流の大小が、低音の量感に効いている。以降は12V/5AのACアダプタでの試聴。
少し華やかだが、透明感があり、各楽器の雰囲気が良く出ている。弱音部の表現能力が高くD級アンプにはない良さがある。
ボーカルを聴くと細かなニュアンスが良く出てきて、ホールエコー(あるいはリバーブ)等の消えていくような音も自然に表現される。
引き込まれて、いつの間にか長く聴いてしまいます。

コスト評価

① アンプIC ¥579
②ACアダプタ ¥2380
③コンデンサ MUSE KZ 1000uF ¥185×2=¥370
            220uF  ¥70
       KW   4700uF ¥312
       UTWRZ 3300uF ¥158
       WIMA MKS2 1uF ¥154×2=¥308
       0.47uF       ¥20×2=¥40
       0.1uF      ¥10
④抵抗    47kΩ(1/4W)   ¥11×2=¥22
       10kΩ(1/4W)   ¥11
⑤ユニバーサル基板      約¥150
⑥RCA端子  赤        ¥198
       黒        ¥198
⑦DCジャック         ¥70
⑧電源スイッチ         ¥187
⑨放熱器           約¥300
⑩トロイダルコイル      ¥100
⑪ボール紙BOX        ¥100
⑫基板スペーサ        ¥30×4=¥120
⑬M3ねじ           約¥10×4=¥40
⑭ケーブル類         約¥300
合計             ¥6023

後記

FX-202Jは思ったより音質が良く、見直しました。器楽曲中心に音楽を楽しむ人にはお勧めできると思います。使うACアダプタは、12V/5A出力のものが良い。(FX-202Jをお蔵入りした原因が、12V/1.5Aと小さい出力電流のACアダプタを使っていたためと思う。)

自作アンプは、アンプICのおかげで非常に簡単に作成できました。ボール紙BOXでも気になるノイズは無く、安定しています。
音質面で気になるところは、高域が華やかな分、低域の量感が小さく感じるところです。低域を改善するためには電源の強化が必要で、できれば16V/5A程度の出力の大きいACアダプタが欲しいところです。

次回は、USB-DAC、プリアンプのオペアンプ選定の見直しを行い、システム全体のバランスを調整します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?