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【アーカイヴ】第108回/昔あったストリップ劇場、昔からのジャズ喫茶とオーディオ、昔のピアノ。新年だけど「昔」に縁があった1月  [田中伊佐資]

●1月×日/「新宿ピットインの50年」(河出書房新社)を出したきっかけで、ミュージックバードでおなじみ田中美登里さんが自分の番組「トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ」にゲストとして呼んでくださった。収録はいつものビル4階ミュージックバードではなく、TOKYO FMでも流れるため8Fスタジオ。場所が変わるとなかなか新鮮だ。
 美登里さんというとクラシックの専門家とばかり思いこんでいたのだが、学生時代もジャズ喫茶やピットインも通っていたという。いまのピットインは、その昔「新宿モダンアート」というストリップ劇場があった場所にある(正確にはその地下)。
 美登里さんは「そういえばその劇場にも行ったことがあるわね。なんか女性が縛られていたわよ」とかいう話まで番組で飛び出し、芸術のレンジがかなり広い人だったことを知る。

「トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ」に出演。

●1月×日/ジャズ批評の取材で向ヶ丘遊園のジャズ喫茶「ガロ」に10年ぶりの訪問。錆びまくった外壁は相変わらず。まさに漫画のガロ的なたたずまいは奇蹟的とすら思える。不思議なことに劣化はそれほど進んでいない。ドラマのセットみたいだと思う。振りの客は妙に恐くてトビラを開けられないだろう。

新宿ピットインの50年(河出書房新社)
向ヶ丘遊園のジャズ喫茶「ガロ」
タイムスリップ感がすごい店内。
妙に泣かせるメニュー。
コーラーというナゾの飲み物も。

 しかし創業もうすぐ50年。そこは流行に左右されることがなかった伝統的なジャズ喫茶だ。オーディオはヴィンテージの名機が揃う。ガラード401、マークレビンソンML6、GASのアンプジラ、JBL075、375などを使ったスピーカー・システム。ママの大野悦子さんは、自分の音、店の音を知っている。ご主人がオーディオ好きで、けっこうケーブルや電源回りに気を配っていた。
 ママの好きなミンガスが60年代に作った自主制作のライヴ(もちろんオリジナル盤)がかかる。ムチャクチャ録音がいい。鮮烈。このところ冷やしそうめんみたいなツルッとしたジャズばかり聴いていたので、ディープな脂っ気が恋しくなっていたところ。余計に熱くなった。

 ●1月×日/ステレオ誌2月号で、ピアニストのスガダイロー、エンジニアでライターの生形三郎さんと鼎談をやったのが縁で、荻窪にあるライブハウス「ベルベットサン」へ。ここはスガダイローのホームグラウンド。昨年11月に出た『Solo Piano at Velvetsun』のハイレゾを聴くというイベントがあった。
 ぼくはハイレゾはやっていない。音楽が記録された円盤が存在しないのは趣味として物足りないと思っている口だが、音の良さはCDとは比べようがないと思った。店にはスガファンが詰めかけ、ハイレゾってなによというような人も少なくなかったが、みんなその意見は一致しているとみた。
 第二部はスガ本人の生演奏。店のピアノはいつ寿命が尽きてもおかしくない70年前のものらしいが、スガの指が鍵盤を駆け巡るとそんなことがウソのように精気がみなぎる。

●1月×日/吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」で、ジャズ批評の「第10回ジャズオーディオ・ディスク大賞」の選考会に例年通り参加。毎年ピアニストのリーダー作品が金賞・銀賞を受賞しているので、作為的にホーン奏者の作品を選ぶようにしていたが、今回はあまり深く考えずに選出。
 この賞は10年前に始まって、選考会すべてに参加した委員はいつの間にか後藤誠一委員長とぼくだけになってしまった。こういった賞の選考者は、ある期間を務めれば、次の世代に受け継ぐべきだとぼくは思っている。新陳代謝は必要だ。10年とはいい区切りなので、今回の選考で最後にすることにした。

●1月×日/炭山アキラさんの紹介で相模原の「ハヤシ・ラボ」へステレオ誌の取材で行く。プレーヤーからスピーカーまでフルラインアップを製造しているラボだが、ぼくが現物を見たかったのは、レコード・プレーヤー。
 1500回転の横置きモーターをウォーム・ギアで縦軸回転に変えたドライブ・メカがとんでもなくカッコイイ。レコード・プレーヤーって基本はメカが命。その部分にワクワク来るかどうか。メカだけは限りなく男っぽくあって欲しい。いまのプレーヤー、体裁ばかりよくて、肝心のメカはなよっとしたのが多すぎる。ああ、まあいいか。
 プラッターや本体ボディも超ヘビー級でリジット。ボディを再生中にガンガン叩いても、針は飛ばない。しかもその音がスピーカーからまったく出てこないってどういうことよ?

「ハヤシ・ラボ」が製造するレコード・プレーヤーの糸ドライブ・メカ

(2016年2月12日更新) 第107回に戻る 第109回に進む 



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東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

  1. アナログ・サウンド大爆発!~オレの音ミゾをほじっておくれ

  2. ジャズ・サウンド大爆発!~オレのはらわたをエグっておくれ

  3. オーディオ評論家対談~音めぐりヒトめぐり


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