潜水と即興

即興演奏という潜水
即興演奏に限らず精神・身体の深みに自分を沈め自分の存在を消していく、あるいは自分と外世界の境界膜を排していく行為は潜水に似ている。深く深く潜っていく際にふと我に返ってはならない。その瞬間自分が違う世界に居ることに気づき目が覚めてしまう。いや、自分が別の世界にあることに、たとえ気づいても恐怖を抱かなければ自分が異世界にあることを認識しつつ潜っていける。白昼夢の中(水面下)にいるのに、水面上を下から眺めつつ潜り続ける感じ。
要は、息継ぎしないのだ。
私が使用する循環呼吸という技術は、実は”息継ぎ”はしている。単に口腔内の空気だけで演奏している隙に鼻から吸気するテクニックである。魔法ではない。だが”隙”に吸気できる空気量は限られているので冷静なコントロールを要する。その冷静さを阻害するのが恐怖や不安である。脳が酸素を余計に消費し空気循環サイクルを乱す。
実際の素潜りやタンクを背負った潜水でも、不安・恐怖による酸素消費の問題は深刻であると聞く。危機に直面したときほど不安や恐怖が事態を悪化させる。
自身の最も奥深い記憶を辿ることが即興の本質であり、言い換えればこの世界の果てのアカシックレコードを辿るのが即興の本質ならば、息継ぎは忘れることが肝要である。


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