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(音楽話)99: Depeche Mode “Walking In My Shoes” (2023)

【道程】
Depeche Mode “Walking In My Shoes” (2023)

世界的には非常に有名で大成功しているのに、なぜか日本では認知・人気が低いケースが、時々見られます。それは昔から続いている傾向で、デジタルに地平が開かれた昨今の音楽業界であっても、今だに続いています。

例えば、Tom Petty and the Heartbreakers。70年代から続いたアメリカン・ロックンロール・バンドとして米国はもとより、欧州でもアフリカでも有名です。
”American Girl””Waiting”“Don’t Come Around Here No More”“Learning To Fly””Free Fallin’””I Won’t Back Down”などは、特に米国人であれば一度は聴いたことがある大ヒット曲。世界的な知名度と人気のある者たちが一堂に集まった『Live Aid』への出演や(1985年。Queenのステージで有名)、同じくヒーローでなければ声がかからないNFL Super Bowl(アメフトのリーグ優勝決定戦)のハーフタイムショーも出演(2008年)。2011年の9.11では、パニックに陥った米国人を励ます曲として”I Won’t Back Down”が全米で多く流れ、米国人のアンセムとしての位置づけを確固たるものにしました。
(”Free Fallin’””I Won’t Back Down”はTom Pettyソロ名義の曲ですが)

Tom Petty “I Won’t Back Down”

Tomは残念ながら2017年に急逝。今でも多くのシンガー、バンドがライヴで彼らの楽曲をカバーしていて、歌い継がれています。しかし日本でその認知度は非常に低く、来日公演は1980年の単独と1985年のBob Dylanとの共演のみ。なんでだろう…アメリカン・ロックって往々にして日本では一般ウケしないですよねぇ。The BandAllman Brothers Bandも。

そしてDepeche Modeも、そんな「日本で認知度の低い世界的バンド」のひとつです。

1980年、英国ロンドンで結成。結成前後でメンバー変遷はありましたが、当時のニュー・ウェーヴのブームに乗って売れ、”Just Can’t Get Enough””People Are People””Master And Servant””Personal Jesus””Enjoy The Silence””I Feel You”など、80−90年代にヒット曲とアルバムを出し、特に欧州で大きな人気を得ました。
キーボードのサンプリング・サウンドとエッジの効いたエレキギターのリフが入り混じり、意味深で暗い歌詞をヴォーカルDavid Gahanの低く重い声質が冷たく歌う。メンバーは基本的に黒づくめの衣装ですが、ギターMartin Goreは女装的・グラム的な衣装で毳毳しく、異様な雰囲気を醸し出していました。

90年代半ばにキーボードのAlan Wilderが脱退したことが契機となったのか、Daveが2回自殺未遂を図り(2回目は本当に危なかった)、Martinはアルコール中毒、キーボードのAndy Frecherは精神疾患でツアー参加拒否など、バンドは一気にボロボロの状態に陥ります。しかしなんとかそこを乗り越え、2023年には新譜を発表、健在ぶりを示しています。
Andyは2022年に急逝。バンドは失意に落ち込むも残ったDave・Martinで存続の道を選んでいます)

Depeche Mode “Ghost Again” (2023 最新シングル)

”Walking In My Shoes”は、1993年の8thアルバム『Songs of Faith and Devotion』収録。前述の新譜=2023年3月に発売された通算15枚目のアルバム『Memento Mori』のプロモーションで出演したBBCの人気企画に沿ったライヴ出演時のものです。BBCコンサート・オーケストラをバックに、極力アコースティックな音を乗せて生で歌うこの企画、いろんなシンガー、バンド、ミュージシャンが出演していて、私のお気に入りYou Tubeチャンネルのひとつです。

アレンジは原曲に非常に忠実。Daveのダンディな低音ヴォーカルも健在ですが、Martinのコーラス声に毎回痺れます。ヴィブラートがかかった独特の声質。グレッチのデカいギターを抱えEBOWでサステインの効いたリフを弾きながら歌う姿。なんでだろう、カッコいいと思ってしまいます。
90年代終わりからサポート・メンバーとして活動しているChristian Eigner(ドラムス)の派手ではないがしっかりキメどころをわかっているドラミング、この曲の肝であるリフをオーケストラとのバランスを見ながら強弱を変えて弾いているPeter Gordeno(ピアノ)の手練れ具合含め、さすがベテランたち、全体像が非常にカッコ良く、そして英国的。美しい。

私はこの歌詞が非常に好きで、今でも時々心に浮かべます。

蔑まされようが、嘲られようが、吐き捨てられようが、これが俺の人生だ。レッテルを貼ったり見下したりするようなら、俺の道程を歩いてみろよ(try walking in my shoes)、躓くよきっと。皆好き勝手なことを言うし、自分もいろんな過ちや失敗をしてきたけれど、それでもこれが私の人生。なんなら俺と同じことを経験してみろ、文句があるなら。

ほんとそれ。僻み根性や妬みから言っているのではなく、素直にそう思います。そしてそんな人生をもし、自分自身までもが否定してしまっては、もう救われないというギリギリのラインも感じます。

…わかってもらえるかしら、この気持ち。自身の道程に対する悲壮なまでの覚悟と嘆きが泣き言・戯言に聞こえるあなたは、きっと強い人。でもそんな心境に至ることは、私は決して無いのです。

異論があるのであれば、私の人生、歩んでみてください。
…生意気言ってすみません。

今まで俺に降りかかってきた 物事を教えてあげよう
俺が標的にされた痛みについてさ
でも神は顔を赤らめるだろうね
足元には沢山の享楽 俺には禁断の果実だ
でもお前の脈拍はきっと 上がってしまうだろうね

+
俺は許しを請おうとしているわけじゃない
しでかしたことへの慈悲なんて要らない
でもお前がなんらかの答えを出すその前に
俺の靴で歩いてみるがいい
俺の靴で歩いてみろよ

++
お前は俺の道程に 足を捕らえることだろう
俺がやってきたように 同じ約束事を守ってみろよ
もし俺の靴で歩いてみたなら
もし俺と同じ歩みを辿ってみたなら

道徳は眉を顰め 品位は見下してくる
スケープゴートの運命は俺次第だ
でも誓って言うよ 裁判官と陪審員に
俺は今より純粋だったことは一度もない
わかりやすい話さ

より明快な良心を求めてるわけじゃない
いろんなことを経ての心の安らぎが欲しいだけ
あらゆる後悔について語るその前に
俺の靴で歩いてみるがいい
俺の靴で歩いてみろよ

(++repeat)

(+repeat)
(++repeat)

(Depeche Mode "Walking In My Shoes" 意訳)

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