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(音楽話)100: Nina Simone “Feeling Good” (1965)

【最高】
Nina Simone “Feeling Good” (1965)

失礼、とっくに取り上げていたと思っていました。ちょうどいい、「音楽話」キリの良い100回目はNina Simoneにしましょう。

彼女抜きでは私の音楽経歴は成立しません。出会いは高校時代。姉が買ってきたジャズのコンピレーション・シリーズに入っていた”I Love You Porgy””Don’t Smoke In Bed””Little Girl Blue”でした(特に”Little Girl Blue”が大好き)。ピアノの旋律にクラシックの匂いというか空気を感じつつも、とにかくなんだこの声は…低音域が効いているけど何気に高い、ハスキーで独特の声。あまりにも心に引っかかり、いつまでも頭から消えてくれませんでした。何を歌っているのか理解できなかった当時の英語力であっても、なんかすごいことだけはわかりましたー情念というか、祈りよりもさらに深いところで鳴っていて、強い意思を感じたのです。

調べてみると不世出のシンガー(ピアノも超カッコいい)であり、アクティビストでもあった彼女。当時から人間の尊厳としての人種・性への差別撲滅を主張していたその姿勢は、二重にも三重にも驚きと感銘を私に与えてくれました。それ以降彼女に夢中になり、現在に至ります。

1933年米国ノースカロライナ州生まれ。ピアニストを志し、あのジュリアード音楽院に入学(もうこの時点で才能が溢れている)。しかし人種差別が色濃く影を落とし、キャリア初期は生活のためにバー付きのピアニストとして食いつなぐ日々だったようです。
1957年頃に”I Love You Porgy”でシンガーとして有名になっていきますが、彼女はジャズに囚われず、60年代以降、あらゆるジャンルの音楽をカバーしていきます。その自由な発想・立ち位置は当時では珍しい存在でしたし、古参のジャズ・ファンからはよく思われないこともあったでしょう。それでも彼女は屈しませんでした。それどころか、人種差別への徹底的な抗議、黒人公民権運動での影響力あるメッセンジャーとして活動し、当局からも目を付けられていました。
70年代、離婚を機に米国を出てアフリカに移住、アフリカン・ミュージックに影響を受けつつ音楽性がより豊かに変化。マイペース、でもひとたびステージに上がると圧倒的なオーラとメッセージ性が聴く者の心を捕えて離さない、唯一無二のシンガー/ミュージシャンになりました。
00年代以降はフランスに拠点を構えライヴを中心に積極的に活動していましたが、2003年に逝去、70歳でした(4/21が命日)。

”Feeling Good”は、TVCMでも使われたので耳馴染みある方も多いと思います。非常に多くのシンガー、ミュージシャンがカバーしています。今は亡きAviciiのリミックスなどは、原曲に敬意を払いつつもアレンジに彼らしさがあってカッコ良かったなぁ…。

Nina Simone "Feeling Good (Avicii Remix feat. Audra Mae)" (2016)


原曲に話を戻しましょう。

出だしのアカペラで歌うサビのカッコよさ、そして痺れるようなイントロのブラス。これだけでヤバい!と思わせてくれる。歌詞自体はシンプルですが、込められている想いはあまりに重く、強烈です。
前述の通り、黒人への差別が色濃い時代の中で、彼女はそこに徹底してNO!を言い続けました。その根底にあるのは、尊厳。虐げられるのではなく、尊厳を持って堂々と生きる覚悟。

「もう最高の気分!(I’m feeling good)」は、あらゆることからの解放を意味していることは間違いありません。何度も「わかるでしょ?(you know how I feel)」と出てきますが、最後だけ「I know how I feel」と歌っています。強いて訳せば「どれほど大切か、私わかってるわ」。その直前に出てくる歌詞は「freedom is mine(自由は私のもの)」。そうです、自由というものを切望し、人間としての尊厳を守ること。その大切さを理解しているからこその「(その大切さ、)私わかってるわ」。
だからこの歌の一番最後、「I feel good」の歌い方が、目一杯引き伸ばして叫んでいるのです、「気分良いったらありゃしないわ!」と。

あなたは今、生きていて「I feel good」と言えてますか?私は、ほとんど言えずに生きてきたように思います。でも、失意や悲哀や絶望に落ちていく度、この曲に私は涙しつつ、彼女に背中を叩いてもらってきたように思います。

「(最高の気分よ!と言えるように)さぁ、頑張りなさいよ!」

もしかするとNina Simoneは、私にとって先生なのかもしれない。
Yes Nina, I shall hang tough to say “Feeling good!”.

鳥が天高く飛んでる鳥たちみたい わかるでしょ?
空で照っている太陽のよう 意味わかるでしょ?
靡いているそよ風みたいに 気持ちかわかるでしょ?

+
夜明けがやって来る 新しい一日が始まるの
これが私の新しい人生!
もう最高の気分!

水を得た魚みたい わかるでしょ?
自由に流れる小川のよう 意味わかるでしょ?
木々に咲き誇る花みたいに 気持ちわかるでしょ?

(+repeat)

陽の下にいる蜻蛉みたい、わからないの?
楽しげな蝶のよう 意味わかるでしょ?
一日が終わってぐっすり眠る そういうことよ

この古めかしい世界は新しくなる
そして全部私のもの!

瞬く星たちよ わかるかしら?
松の香りたちよ どんな気分かわかるかしら?
ついに手にしたこの自由を どれほど待ち望んだか

(+repeat)

(Nina Simone "Feeling Good" 意訳)

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