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風凪いで(23)

「転校生の山本凪沙さんです。」
「山本凪沙です。よろしくお願いします。」
パチパチパチ
「席は川野君の隣ね、みんな山本さんがわからないことは山本さんに教えてあげてね。」

キンコーン カンコーン

「ねえねえ、山本さんて、前はどこ小だったの?」
「鷺倉学園の小等部。」
「え!? 私、鷺中受験しようと思ってるのに。」
「超もったいない! なんでこんなうちの学校に来たの?」
「えーっと…」
「小野、多田、お前ら、理科室のそうじ当番だろ。早く行けよ。」
「うるさいな、川野。」
「村井センセに言っちゃおうかなー。内申下がるぜ?」
「マジ川野うざい。」
「やっかんでんだよ。川野、頭いいのに受験できないから。」
小野サンと多田サンとやらは去って行った。
「えっと、川野君だっけ。ありがとう。」
「別に。」
「あたしも中学受験しないつもり。うち、もしかしたらお父さんとお母さん、離婚するかもしれないんだ。」
「…ふーん。」
そしたら、川野君が教えてくれた。
「俺んちは、生まれた時から父さんいない。俺は私生児ってやつ。別に食べるものとか困ってないけど、私立は金かかるから受験しない。俺が決めた。その代わりすげえ頭いい国立の大学行って勉強して小学校の先生になる。それで、母さんに育ててもらった恩返しするんだ。」
「……川野君て、えらいね。あたしなんか自分のことしか考えたことなかったよ。」
「…このクラスの奴らだって半分は中学受験するし、卒業まであと半年位しかないから、みんな自分のことでいっぱいいっぱいだよ。…俺だって本当は中学受験してみたかったけど…別に中学受験で人生決まるわけじゃないって、俺は信じてるし。」
「…へえ…」
信じてるか…
「あたしは、なんにも信じられなかったな。」
「たいてい自分のこと信じてたらうまくいくぜ?」
俺そろそろ帰ろ、と言っている川野君に向かって、
「川野君のこと、師匠って呼んでいい?」
と、半分冗談で言ったら、
「ししょう? 弟子を取る気はないけど、好きに呼べば? お前おもしろい奴だな。」
と、川野君が笑った。

あたしは新しい小学校で師匠と呼べる友達が出来た。

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