見出し画像

一首評:田中有芽子「2023年3月4日 日経歌壇」掲載歌

こうしてる間にも半熟卵自身に残る熱で固まる

田中有芽子(2023年3月4日 日本経済新聞 日経歌壇 穂村弘 選)

定型であるように読むならば「間」は「あいだ」と読んで、「こうしてる/間にも半/熟卵/自身に残る/熱で固まる」という、二・三・四句に渡る句跨りの短歌ということになるだろう。

この句跨りが、「熱で固まる」までがあれよあれよと進んでしまう感じを演出しているように思う。

ただ、「間」を「ま」と読んでしまっても面白いかもしれない。そうすると
「こうしてる/間にも半熟/卵自身/に残る熱で/固まる」というようになって「五七六七四」、句跨りしつつ三句目は字余り、結句は大きく字足らずで終わる短歌となる。破調に近い。

こう読むと、最後の最後で強烈な失速感を味わえて、「半熟卵」が「熱で固まる」あっけなさとどうしようもなさが際立つように思う。

人間の都合としては、おいしさのために「半熟卵」はちょうどいい柔らかさの「半熟卵」であって欲しい。でも、ちょっと目を離したり冷やすのを怠ったりすれば、あっという間に「半熟卵自身に残る熱で」固まってしまう。

それはどこまでも物理法則であり、人間の介在できるところではない

その圧倒的などうしようもなさを、散文にも破調にも近いようなこの短歌は強く伝えてくれる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?