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<茫漠たる手前勝手なCD名盤ご紹介>#5

ロッド・スチュワート 1975年発売。ソロ6作目『Atlantic Crossing』

ロック史上、最重要なヴォーカリストの一人である英国人ロッド・スチュワートの、渡米一枚目の名アルバムである。

何度も書いているように70年代末期、大学在学中にも関わらずほぼ行かずに、地元の下北沢でバイト三昧だった僕は、昼夜を問わず色んな音楽が掛かる店に出入りしていた。

バイト先の「宗兵衛」はもとより「独」「イートアピーチ」「マザー」「マリ」「ノイズ」「いーはとーぼ」「ベターデイズ」等々。今はほとんどが閉店してしまった。

そんな中、なぜかすぐ無くなってしまったが、線路脇に「ガソリンアレイ」という薄汚れた小さなバーがあり(下馬とは違います、店名はロッドの2ndアルバム名)知り合いのドラマー、横澤龍太郎君(その頃は紀伊国屋バンド等)がバイトしてたので時々立ち寄っていた。

で、龍太郎君がこのアルバムのB面、"Slow half"と表記されている方をやたら好きで延々かけ続けていたので、当時酒も飲めなかった僕ですらいやでも気に入ってしまった訳だ。

ロッド・スチュワートを知らない人は少ないだろうが、イギリスでジェフ・ベック・グループ~フェイセズを経てソロになり、名ヴォーカリストとして70才を超え、未だ現役のレジェンドである。

ロックの殿堂入りはもとより、イギリスでは勲章も授与された英雄である。

その彼が1975年(一説によると)イギリスでの重税に耐えかね、大西洋を渡ってアメリカに移り、ワーナーブラザーズと移籍契約をした。

そしてアメリカで録音・発売した一作目がタイトル通りの『アトランティック・クロッシング』なのだ。

もうその頃は聖地となっていたアラバマ州のMuscle Shoals(マッスル・ショールズ)でのレコーディング。

スティーヴ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンなどブッカー・T&ザ・MG'sのメンバー等を起用し、この傑作をプロデュースしたのはトム・ダウドであった。

トム・ダウドはエンジニアでもあり、関わった楽曲で最も有名なのはやはり「いとしのレイラ」だろう。

70年代後半の全盛期のロッドを支え、続く1976年『A Night on the Town』、翌77年『Foot Loose & Fancy Free』のアルバム三部作をトムはプロデュースし、個人的にこの三枚はロッドのポピュラリティを持つロック・ヴォーカリストとしての集大成だと思う。

勢いに乗って、当時大ブームのディスコ物に挑戦。1978年『Blondes Have More Fun(スーパースターはブロンドがお好き)』からは"Da Ya Think I'm Sexy?"(アイム・セクシー)が全世界で大ヒットし、日本でもシングル・アルバムともにチャート上位を占め、ディスコの定番曲となった。

このアルバムとシングルは、セールス的には大成功。
しかしこのヒットで、僕のように距離を置いたファンも少なくないと思う。判りやすいのは良いんだけど、別にロッドがディスコまでやらなくてもいいじゃん・・って感じ。

そして80年代以降、因果応報なのかしばらく低迷期に入ってしまう。

さておき、『Atlantic Crossing』に戻ろう。

このアルバムはA面は"Fast half"、B面は前述したように"Slow half"となっている。

A面(CDだと前半5曲)はソウル感溢れるいなたいロック中心で、ドビー・グレイでヒットし、その後ストーンズやドゥービーもカヴァーした名曲「Drift Away」などを収録しており、こちらも素晴らしいが、やはり後半のバラード名曲の数々が最低でも月に一度は聴きたくなる位の極上品である。

様々な人のカヴァーで有名な”It's Not the Spotlight”(日本では浅川マキなど、元はBarry GoldbergとGerry Goffinコンビの作品)や、88年にEverything But The Girl もカヴァーした”I Don't Want To Talk About It”。

そしてアイズレーブラザースでヒットした"This Old Heart of Mine"を極上バラードでカヴァーしている。

*こちらはさらに元祖のロナルド・アイズレーとデュエットでリメイクしたヴァージョン。

さらに全英全米で大ヒットした「Sailing」がアルバム最後の曲で、聴き応えたっぷりのバラードタイムを約束してくれる。

*これは3年前、68歳のロッドのライブヴァージョン。これやれば大抵のファンは満足する笑。

ロッド・スチュワートは40年以上にわたる長いキャリアの中、常にチャートに顔を出すヒットアルバムを作り続けてる稀有なヴォーカリストである。

2010年にLAから本国イギリスに帰還したロッドは、現在も現役のまま、去年もオリジナル中心のアルバムを発表している。

今年2016年6月には音楽への貢献が認められ、英国政府からナイト爵位が授与された。

ともあれ、本作『Atlantic Crossing』は栄光を続けるロッドのアメリカでの黄金期を確約した、重要な一枚である。

今また流行のバーボンソーダとか飲みながら、バーの片隅で素敵な女性と極上バラードに聴き惚れたいところだ。そんな店を下北沢に探しに行こうかな。

この稿終わり

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