リッキー_リー_ジョーンズ

<茫漠たる手前勝手なCD名盤ご紹介>#11

リッキー・リー・ジョーンズ 1979年デビュー作『Rickie Lee Jones』

70年代最後の最後に現れた、シンガー・ソングライター歌姫の後世に残る傑作。とにかくこのアルバムジャケットにやられた。

写真は当時、超一流の売れっ子カメラマンであるノーマン・シーフ。

このジャケ写一枚で色合いといい、仕草といい、その表情と共に彼女の世界観を見事に表しているし、もの悲しさとしたたかさが、そこはかとなく伝わってくる。

僕ももちろん当時シモキタの安アパートに、このジャケは飾っておりました。

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 リッキー・リー・ジョーンズは1954年シカゴ生まれ。

都会には都会の哀愁が存在し、裕福ではない層にはそれなりの重みが押し付けられる。

酒・麻薬・妊娠中絶・家出、恵まれない境遇から様々な経験を経て、19歳で移り住んだLAの酒場で唄い初め、トム・ウエイツとの出会い、そして同棲。

そこで雑草のように生まれた歌の数々。そしてリトル・フィートのローウェル・ジョージに認められ25歳でのデビューへと繋がる。

その半端無い人生を凝縮した本作は、未だに消える事のないエナジーを放っている。

とにかくアルバムの内容はワンアンドオンリーの充実度だ。

ジャージーでフォーキーでブルージーな楽曲。

日常を切り取った、ちょっと難解でけして明るいとは言えない歌詞。

奔放さと静謐さ、そしてコケティッシュさと、けだるさを併せ持つ、リッキーは何人いるのかと思うような七色の歌唱力。

さらに、その歌声に引っ張られたかのようなバックの演奏とアレンジの類い希な凄さ。

一曲目の”Chuck E.'s In Love”(恋するチャック)はリッキーのミュージシャンとしての良さの全てを表したと言える名曲。

*MVでの”Chuck E.'s In Love” ホーンアレンジもリッキー自身。


そして十曲目の”Company”は数ある女性白人バラード楽曲の中でも、泣きそうになるくらいの屈指の名作だと思う。

この曲を評価するプロミュージシャンは本当に数多い。カヴァーも多いがリッキーの歌唱を超える物はまず無い。

*悲しいまでの名曲”Company” オーケストレーションも必聴。

本作に収められた作品群はどの楽曲を切りとっても、綺羅星の如く現れた数多くのシンガー・ソングライター名盤の中で、怒濤の70年代を締めくくるにふさわしい内容である。「唄い手」とはこういう人の事をいう。

プロデュースはワーナー切れ者の二人、レニー・ワロンカーとラス・タイトルマン。そりゃカメラマンはノーマン・シーフを起用するはずだ。

参加ミュージシャンもむろん超豪華。

主だったところで、スティーヴ・ガッド、アンディ・ニューマーク、ジェフ・ポーカロ(Dr)、ウイリー・ウイークス(Bass)、バジー・フェイトン、フレッド・タケット(G)、ニール・ラーセン、ヴィクトール・フェルドマン(Key)、トム・スコット、チャック・フィンドリー、アーニー・ワッツ(Horns)、そしてニック・デカロ、ジョニー・マンデル(オーケストラ・アレンジ)、さらにバックヴォーカリストにマイケル・マクドナルド等々。

当時のワーナーブラザースの並々ならぬ力の入れようが判る。

このデビュー作は見事全米三位までチャートを上がり、グラミー賞の最優秀新人賞を受賞し、リッキーはアメリカンドリームを体現する。

次作は、こちらも名盤の誉れ高い『Pirates』(1981)、全米5位。

その後も、こちらも隠れファンの多い『Pop Pop』(1991)

など名作・佳作を発表し続けているが、個人的にはこの1stアルバムを超えるものは無いと思う・・。

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「私はお酒は飲みません。現実に満足していますから」

「私も現実に満足しています。私の現実には酒も含まれておりますが・・」

 映画「ピンクの豹」より

夜更けの人の少ない、良い音響で聴かせてくれるバーで、バーボン片手に心に染み入るこのアルバムを一人聴きたいものです。歌声と詩曲に酔いしれながら・・。

あ、女性とだったら二人でも良いです、たぶん会話はほぼしませんが笑。

この稿終わり。

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