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20.久方振りのファンレター

父上に向けられたパソコンの画面には、『メッセージ1件』との表示があり、その下に割と長めの文章が載っていた。

【拝啓、小生は若い頃、庄司先生のファンだった者です。定年まで勤め上げた会社を週3日嘱託で働き、残りの4日間のうち1日は、子供の頃好きだった漫画を古書店やネットオークションで探している日々です。貴殿の漫画は、たまたま我が家にやってきた孫が、「この漫画家の人の漫画、最近ネットで描いてる人がいる」と教えてくれまして拝見致しました。

漫画のタッチは、庄司先生とは異なり少女漫画調なため、正直面食らいましたが、読み始めるとそれが気にならないぐらい、おもしろい!
庄司先生のストーリーそのまんまではないですか!
しかも、これはあの不慮の事故で亡くなられた先生の絶筆の続き。
ここまで庄司節のストーリーを考えることができるなんて、乗り移られているのかと思うほど巧みな表現、セリフの言い回し。
絶筆漫画をようやく入手したので、続けて読んでも遜色ない展開…正直感動でありました。
これからも読ませていただきます。
かつて、共に週刊漫画発売日は本屋へ走った仲間たちにも伝えようと思う次第です。

願わくば、絵が…と思ったが、おそらく中途半端な似た絵より、このかけ離れ過ぎた絵がいいのかもしれないですね。インターネットの中で、名前も知らない貴方のファンになりました。これからも更新を楽しみにしておりますゆえ、ますますのご活躍を。敬具】

パソコン画面の明るさに、目がシパシパしたのか、途中、うるっとくるものがあった。
読み終えた時には体がじんわり熱くなった。
漫画家人生で初めて、大御所先生や人気作家を抜いて、読者アンケート1位になった日を思い出す。

「すまんな、絵が描けない子供に生まれ変わって。でも、俺の漫画をまだ忘れていない人がいるんだな…ありがたいなぁ〜」

上を向いた途端に、顔の横をツーッと涙が伝う。

「先生、よかったですね」

俺の頭をくしゃくしゃと撫でる父上、抱きしめてくれる母上の目にも光るものがあった。
息子・純太として育ててくれただけでなく、漫画家・庄司淳をもサポートしてきてくれた二人。
俺が言うのもなんだが、いろいろな葛藤がこのファンレターで報われたんだろう。

「母上の画力と、父上のアイデアがなければ、この感想はもらえなかった。本当にありがとう。これからクライマックスに向かっていく。もうしばらく手伝ってくれ」

俺は二人に向かって頭を下げた。
ファンレターには『ありがとうございます。執筆の励みになります。これからもどうぞよろしくお願い致します』とだけ簡単に返信してもらった。
これからもお礼の返信はするが、質問などには一切答えない。
覆面のままでいた方が安全だという父上の配慮だった。

そして、この日から加速的に読者が増えていった。

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