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14.親子合作!

「それ、どういうこと?」

母上が、父上に問う。
父上は俺の方を向いて、営業マンのような顔で説明を始めた。

「純…、いや庄司先生はネームは描けるってことですよね。そしたら、妻にそのネームを元に漫画を描かせればいい。それを俺がSNS発信しましょう。それで少しファンが付いたら、同人誌的な自費出版をすればいい」

母上は目を丸くした。

「ええっ!もう何年も漫画なんか描いてないし、ましてや…庄司淳の漫画みたいなタッチで描けないし、自信ないわ」

それはそうだろう。
母上は純太を育てることに一生懸命で、俺の記憶では絵を描いている姿は見たことがない。

が、しかし…、ベルは俺に『続きが描ければいいんでしょ』と言っていた。
俺が生まれ変わった純太に、俺・庄司淳の記憶が目覚めたのは、母上の漫画を見つけた時だった。
これは、ベルからの暗号だったのかもしれぬ。

「母上、頼む。俺のネームを漫画にしてもらえないだろうか。そして父上、俺はSNSについてはよくわからないが、それで読者に読んでもらえる可能性があるということだろうか?」

父上が頷く。

「庄司淳漫画は、一定のコアなファンがいます。確かに、妻の絵では最初から受け入れられないかもしれません。ですが、ネームを考えているのは庄司淳本人ですから、きっとストーリーで話題になると思います」

母上の方を見ると、口を真一文字に結び、父上の話を真剣に聞いている。
その顔は、不安とワクワクが混在するかつて新人漫画家だった自分のように思えた。

『君みたいな顔をしている者は伸びるんだよ』

そう言ってくれたのは、漫画の神様と呼ばれたあの人だったっけか。
俺より先に亡くなられていたが、ベルに話してあの世で挨拶しておけばよかった。
いや、俺があの世へ行った時点でもう生まれ変わっていたかもしれないか…。
そうか。
今、ここで俺が言うべき言葉は、あの時と同じだろう。

「母上、やってもらえますか?あなたならできます。なぜなら、あなた方は俺が漫画の続きを書くために選んだ両親だからです」

母上が俺を見つめる。

「庄司先生、私の素人漫画でもいいんですね?あなたの名誉を傷つけるかもしれませんよ」

その決意に俺も答える。

「頼む。純太として生まれ変わったとはいえ、過去のこんなエゴを押し付けるのは申し訳ないと思う。だが…やっぱり俺は漫画の続きを描きたい。どうか親子合作をしてくれないか」

俺の言葉に母上が静かに頷いた。

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