Akarisong『輝く鈍色に…ある専業主婦の歌』(24)
ウ、ウケる…
アカリの姿を見たエイミと夫の、口をポカーンと開けたまんま、固まった顔。
そりゃそうよね、だって中身が私だなんて知らないし。
「ただいま〜!久しぶりの我が家〜!」
うっかり言っちゃったし。
そしたらそしたで、私の姿のアカリと、えっと…マツモトさん曰く、アカリの妹で夫の部下だというエミカさんが、玄関にやってきて「いらっしゃい」じゃなくてこう言ったのよね。
「はじめまして!おかげさまでいい歌作れそうよ!」
「今回は姉がご面倒おかけして申し訳ありません。たまたま上司の奥様だったそうで、不躾にお邪魔させていただき、本当に重ね重ね申し訳ありません」
なにがなんだかよね。
私だってこの数日のことは、もしかして夢の中なんじゃ…って思ってるし。
「え?ママ、アカリと知り合い?えっ!なに?どういうこと?!」
エイミの声で顔を見せた主人は言葉もでないし。
うふふふ…
「立場的に変ですけど、とりあえず私が食事を作らせていただきましたので、アカ…。マツモトさんたちもどうぞおあがりください」
エミカさんが、呼びにくそうに途中からマツモトさんを呼んだ。
マツモトさんの話では、エミカさんは主人の浮気相手の1人ではなさそうだが、それにしたってバツが悪そうである。
当のアカリといえば、アカネである私のイメージには似合わないシャープな目つき。
そうか、私って中の人格が変わると、目つきがこんなに変わるものなのね…。
エミカさんに肘で突かれて、アカリは小さく「あ、そっか!まだ私がやらねばね…」と呟き、主人の肩をトントンと叩いて、食卓へ促した。
その2人の姿が夢を見ているような、自分が幽体離脱しているようななんだかヘンテコな光景。
エイミは興奮で蒸気したピンク色のほっぺたを押さえて、私の顔をじっと見つめている。
そうそう、この子が驚いた時の癖だ。
そりゃそうよね、まだ中身が私だとは思ってないし、いきなりカリスマシンガーなんて人が家にやってきたら、大人だって慌てるわよね。
「どうしたの?中へ行きましょう」
エイミに言うと、コクコクと頷いて私とマツモトさんを部屋まで案内してくれた。
勝手知ってる我が家なので案内はいらないが、マツモトさんが私の手を引いた。
「御手洗い、お借りしていいかしら?」
エイミが「そこを右に入った途中にあります」と指差す。
「私もお借りしますね」と言うと、エイミが「わかりました」と先に中へ入っていった。
マツモトさんが耳元で囁く。
「アカリから聞いてましたが、お嬢さん、エイミさんでしたっけ。かわいいですね。歌はアカネさん譲りかしら?」
「友達とよくカラオケに行ってるらしいから、私よりはうまいと思いますけど…、ほら、私って何年も相手にされてなかったから、正直わからないのよ」
マツモトさんが「なるほど」と呟き、「本当にトイレに行きたかったよ」のというので案内した。
トイレの横の洗面所で、鏡に映った自分を見る。
この家に合わない垢抜け感。
でも、これは私じゃない。
だけど、帰ってきた時に感じた安堵感は、やはり私・アカネのものだった。
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