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Akarisong『輝く鈍色に…ある専業主婦の歌』(26)

パパの声に、ママが「わかっちゃいました?」とお茶目に言った。
変だな変だな…と思っていたけど、まさかママがアカリと入れ替わっていたなんて!
エミカさんは知っていたのかな…と、エミカさんの方を見ると、少しだけ俯いて溜息をついている。
マネージャーさんも知ってたみたい。

「じゃあ、最近、ネットニュースでアカリが所帯染みたことばっか話してておかしいって、中身がママだったからなの?」

誰をみて話せばいいかわかんないけど、ママの顔を見て聞いてみる。

「そうよ、それでいいってマツモトさんも言うし。でも…ママは音痴だから歌う訳にはいかなくて、喉の故障にしてた訳」

アカリ…の姿のママが答える。
なんで2人が入れ替わったの?
そんな物語の中みたいなことって、実際に起こりうることなの?

「エイミさん、混乱させてごめんなさい。私たち姉妹、特にアカねぇは特殊な能力を持ってて」

エミカさんが話し出すと、ママ…の姿のアカリが話し出す。

「そうなのよ!ぶっちゃけちゃうと、曲作りする時に主役となる人の気持ちが知りたくて、『この人だ!』と思った人と数日入れ替わってもらって、その暮らしを体験させていただくの」

「それでママ?」

ママなんてパパに浮気されて、やさぐれてるただの専業主婦じゃん。
どこがアカリの歌のネタになるのよ?

「『ママのどこが?』って思った顔してるわね。あなたやダンナさんのそういうとこ!そういうね、夫の浮気とか反抗期の娘にイライラしても、そこをグッと堪えて、日常生活のために頑張ってる女性の歌を歌いたくなったの、私」

パパが青くなって、エミカさんの顔を見る。

「私はなにも言ってません」

「そうそう、ダンナさん。エミカはたまたま私の妹で、あなたの部下で尚且つ、あなたの浮気相手の相談に乗っていただけ。アカネさん、うちの妹、初対面よね?」

ママ…の姿のアカリが、アカリ…なママに聞く。

「ええ、エミカさんは初対面です。最初は夫の相手かと思ったけど、主人の浮気相手って私が見つけた相手は派手系な女性ばっかりだし、会社の納涼祭に行けば、私に挑戦的な視線を送ってくる人ばかりだったから、エミカさんは違うだろうなと思ったわ」

パパって派手系が好きなんだ…ママと真逆じゃん!
エミカさんだって、カリスマシンガーの妹だって言われても信じられないぐらい地味!
今より少し小さい頃、パパの会社の納涼祭に連れてってと、ママに頼むと困った顔してたのは、パパの浮気相手に睨まれるからだったんだ。
だから、家に帰ってくると『頭痛いから先に休むわ』って寝ちゃってたんだ…。
なんだか娘としては聞くに堪え難い話が出てきたけれど、もうここまで聞いたら最後まで見届けたい。
そう思ったら、パパがぬ〜っと立ち上がった。

「で、君とアカネさんは、いつ元に戻るんですか?」

アカリ…中はママに向かって、青くなったパパが掠れた声を絞り出す。

「私…俺にアカネさんを返してくれ!」

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