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15.愛言葉は「あなたは本当に本が好きなのね」

先日、母に本屋の話をしていたら、母がポツリと言われた。

「この辺りは昔、本屋がたくさんあったのにねぇ…」

言うまでもなく、それはレンタル店が一緒の複合店ではなく、【昔ながらの本屋さん】という意味である。

そうなのだ。
実は私の地元は、本屋さんがたくさんあった。
これを書き始めてから、もっといろんな場所の書店を…と思うのだが、やはり生まれ育ったこの地域の、今は消えてしまった本屋さんがたくさん目に浮かぶ。

今回は、まさか閉店することはないだろうと思っていた地元一の老舗書店。
足繁く通うようになったのは、高校生になってからだった。
合格した高校の教科書を扱う店だったので、買いに行ったのが運のつき。
どちらかといったら郊外に住む私は、親に頼まなくては行けない場所だった。
時々、お祭りの時に寄ってもらえる程度が、自転車という足を得たことによって、「自分でいつでも行ける」と判明し、一気に身近になった。
とにかく欲しい本は、ここに行けば必ずある。
それぞれのコーナーが彩豊かで、見ているだけで栄養素だった。
今も私の本棚に鎮座するけらえいこさんの『セキララ結婚生活』を買ったのもここだった。

社会人になってからもマメに通っていたけれど、ここは駐車場が少なくて、満車で諦めることもあったぐらい、地元の本好きには「困ったらここ」な聖地だったかもしれない。

一時期、この書店と図書館が共に、徒歩圏内にある場所で働いていた時、とにかく理不尽勝手な上司が大嫌いで顔が見たくなくて、上司から逃げるように休憩時間は必ずどちらかにいた。
そんなに交通量の多い地域でもないから、移動する時も歩きながら本を読んでいた。
現実が上手くいかない身としては、本の世界こそ、我がすべてだった。

そんな私を老舗書店の奥様はどこかで見かけたらしい。
毎日毎日本屋の中をフラフラしてるんだから、そりゃ、顔は覚えられるだろう。
ある日、本をレジに持っていくと、奥様がいた。挨拶したらこのように声をかけられた。

「あなたは本当に本が好きなのね。この前、歩きながら熱心に本を読んでるのを見かけたわよ。なにを読んでいたの?」

読んでいたのは、図書館で借りた山田詠美さんだった。

「え〜っと、山田詠美の『ひざまずいて足をお舐め』です」

正直に伝えたら、目を丸くされたっけ。

今もそういう面はあるが、特に当時の私は今以上にちんちくりんで、山田詠美本を読む人間には全く見えなかったから仕方ないけど、恥ずかしくてしばらく店に行けなかった。
結局は、図書館が休みの日に即、本屋通いは復活したけどね。

でも、聖地のような老舗書店の奥様からかけてもらった『あなたは本当に本が好きなのね』は、当時、なにをやっても上手くいかず、疎外感でいっぱいだった私を認めてくれた愛の言葉だった。

今もそう思う。
だって、今でもそれだけはなにがあってもブレない私だから。

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