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雨の日にちょっと自分を好きになる

雨が降っている朝、雨の予報を見た朝、選ぶのは泥跳ねで汚れても良いボトムスと洒落っ気のない靴。
鞄に入れたノートは雨水で濡れないか心配になるし、靴に滲み込む冷たい水も不快でしかない。

本当は、外にも出たくない。
だから、雨の日はとびきり素敵な雨傘で。


中学生くらいまでは、傘は無くしたり壊れたりしやすい消耗品だからという理由で、1000円以下のリーズナブルな傘しか使っていなかった。
確かに、強風に煽られて壊れることは何度もあった。
でも、私は忘れたり無くしたりということは一度もなかった。

高校生になって、気に入った傘を見つけたので、思い切って2000円の傘を買ってみた。
骨が8本じゃなくて16本のやつ。
傘に2000円はちょっと勇気が必要だったけれど、中学生の時から電車通学をしていて、それでも傘を無くしたことのない自分を信用していた。

やっぱり、無くすことは一度もなかった。
それに加えて、金額の分だけ丈夫な傘だった。
結局、1つの傘を長く使うことができたので、2000円くらいならしっかりお金を出した方が長期的に考えるとコスパは良いということに気付いた。

中学、高校の時は制服だったので、デザイン性のある傘を使ってもかわいくまとまった。
けれど、大学生になり、私服で通学するようになると、傘を選ぶときに“どんなコーディネートでも合わせやすいデザインか”を基準に考えるようになった。
そう考えると、究極、ビニール傘が良い。
少し妥協をするなら、白や黒の傘が良い。
でも私は、かわいい傘が差したかった。

そんなわけで、少し前までは、色数の少ないストライプやシンプルで小さな花柄の傘を使っていた。
ところが先日、使っていた傘に穴が開いたので新しい傘を探していたとき、色数の多い大胆で華やかなオレンジの傘に一目惚れしてしまった。

金額は2000円。予算内。
でも、派手だしな~、コーディネート選ぶよな~、就活もまだ終わってないんだよな~、来年から社会人なんだよな~、私の歴代傘の平均寿命からして通勤にも使うかもしれないよな~、と熟考の末、一度保留にした。

それから数日、違うお店であの傘を見つけた。
また、手に取った。
忘れもしない、一目惚れしたあの日のときめきが蘇ってきた。

買った。

買わなきゃじゃん。2回も会ったんだから運命の傘だよ、これは。
コーディネート?合わせれば良いじゃん。
就活?シンプルな白の晴雨兼用の折り畳み傘なら持ってるじゃん。
来年から社会人?好きな傘自由に使えるのは今だけかもしれないよ?

頭の中で天使の私と悪魔の私が会議した結果、その会議が終わるよりも前に本能で買っていた。
こうなったら、雨の日が楽しみで仕方ない。
この傘をレジに持って行った瞬間から、どんなコーディネートを合わせようか既に考え始めていたくらいである。

視界の上の方に入り込む傘が愛おしい。
自分の視界には隅っこにチラッと見えるくらいだけれど、自分より後ろを歩いている人には目立って見えるのかな、と考えると、物語のヒロインにでもなった気分だ。
目立つのに、それでいて自分の姿そのものは傘が隠してくれるので恥ずかしくない。
雨の日は暗い色の服装の人が多い。黒や透明の傘がひしめく街で、きっとこのオレンジは目立っているに違いない。
ああ、今の私、きっとこの街で一番素敵だ。
素敵なのは私じゃなくて傘だけど、そんなのどうだって良い。
足取りが軽い。
誰と喋っているわけでもないのににこにこしちゃう。
どんよりしがちな雨の日に、晴れやかな気分で街を闊歩する私、最高じゃん。

たった2000円の傘で、こんなに気分が上がるなら、
最高じゃん。

だから、雨の日はとびきり素敵な雨傘で。

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