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劇団献身『知ラン・アンド・ガン!』のこと

2020/9/11 19:30公演鑑賞

劇団献身 第14回本公演『知ラン・アンド・ガン!』
作・演出 奥村徹也
@三鷹市芸術文化センター星のホール

4月に予定されていた『スケール』はコロナ禍で公演中止を余儀なくされ、2019年2月の『怪童』より一年半以上をあけての久々の劇団献身本公演。

中止になったのを見た時は「まあ秋はなんとかなるっしょ」な気分でいたけどこの現状(※大学は未だに通学がストップし、日ごとに3桁は都内で感染者が出ている)はナニゴト??!!!??今作の劇中でも22年になってもコロナ収束してなかったけど笑ってもられないね?????ちょっと笑えなかったしね???

何はともあれ無事に開幕し、見届けることができてよかったです...

チラシには「あの豪邸を、駆逐するのだ!〜男七人センチメンタル遊撃軍奮闘記〜」って書いてあったけど、実際に上演されたのはそれとは違うあらすじになっていた。

当日パンフレットの挨拶にも主宰の奥村さんが“大層な使命感はありません”と言いつつ、でも無視はできなかったというようなことを書いてらっしゃったけれど。まさに今思い悩む人の温かみが感じられ、どんなに腐った今だったとしても泥臭くもがいてやるぜ!という心意気の宣言に聞こえてくるような、気持ちの良い作品だった。

「今死んだら、後悔しない?」
妻の言葉をきっかけに、大学時代に熱中していた演劇をもう一度やってみようと仕事を辞めた浅見。彼は、そこから多くの人たちが素晴らしい芸術家となり、旅立ったというアトリエに越してくる。
しかし入居者たちの怠惰が重なり、入居1ヶ月にしてアトリエ存続の危機に直面することになる。危機を脱するには、入居者全員で力を合せて誰しもがそう認認める“傑作”を作り、才能を示さなくてはならない。
アトリエを救うため、
浅見はその才能を開花させていく________

と、思いきや。

開花するはずの才能はどこへやら、
浅見が脚本を書いても書いてもかいてもかいても、、、ありきたりで。現実で起こることの方がよっぽどドラマチック。

着々とタイムリミットは近づき、

アトリエの管理人に言われる。
あなたたちには才能がない
夢を諦めてもらうために才能がない人を集めていた
才能がないことを認めてここを出ていって

圧倒的な才能、ドラマチックな人生。
思いもよらない素敵なことが起こって、身の回りに起こっている不条理、息苦しさ、自己嫌悪、そういうものたちを一掃してくれるんじゃないか。私は今の私以上の何かになれるんじゃないか。

夢見てしまうけど

相変わらず世界はウイルスに脅かされているし。
私は最後の学生生活を、就活に旅行に観劇にバイトにサークル、卒論と精一杯やり切ろうと思ってたのに。経済は落ち込んでるし、
就活はうまく行かなくて9月までかかっちゃったし、相変わらず学校には行けないし、
当たり前に手に入ると思ってた大学での日常はもう二度と戻ってこないし。

思いもよらない素敵なことなんて、そうそうない。
私は私にしかなれないし、
何もなさずに手に入るものなんて程度が知れている。

確かにそう。

でも、この作品が良かったのはそこで諦めちゃわないところだった。

自分じゃない何かになれていなくても、
言い訳を続けながらも自分の能力を試そうと努力した事実は変わらないし、辞めてしまわなければそれに“失敗”や“負け”の称号はつかない。続ける限り、ずっとチャレンジャーでいられるはずだ。迷惑かけるだろうけど、ない才能を振り絞って戦うことを叫ぶ浅見は心底かっこいいと思った。

そうやって、今に食らいついていくしかない。

どうにもならない現実、
自分の力のちっぽけさ、
そういうものをまざまざと突きつけられ、時間があるからこそ悩みすぎてしまったこの半年をギュッと抱きしめ合い、ドンと背中を押してくれるような作品。

演劇はリアルタイムな人間の感情を感じられるところがいい。劇団献身はそうやって温かみを残して作品を作ってくれるから、大好きだ。

また元気で会いに行きたい。

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