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【二次創作童話】冥土の冥ちゃんと、ゆかいな仲間たち①

 ここは冥土。
 あの世でもこの世でもない、彷徨える魂たちが集う場所。
 そこにあるお屋敷で働くメイドさんと、不思議な顔色の悪いお手伝いの飛べない鳥たち。
 お屋敷には主がいるとか、いないとか。というよりも、主はずっとお屋敷を空けたままで、今はメイドさんとその仲間たちが日々暮らしているだけです。

 この可愛らしいメイドさんの名前は冥ちゃん。そう、 冥土のメイドの冥ちゃんです。
 そして不思議な顔色の悪い3羽の鳥さんたちは、フクロウオウムのカカポチャン。なぜか半角のカタカナで、なぜかみんな同じ顔をしています。冥ちゃんにも見分けがつきません。
 なので冥ちゃんはわかりやすいように、3羽のカカポチャンに色違いのスカーフを巻いてあげています。

 赤いスカーフを巻いた、しっかり者の赤カカポチャン
 青いスカーフを巻いた、あわてん坊の青カカポチャン
 黄色のスカーフを巻いた、マイペースでのんびりしてる黄カカポチャン

 冥ちゃんと3羽のカカポチャンが毎日楽しく暮らしていました。


 しかし、ある日の夜のこと。
  冥ちゃんは、冥土に唯一ある自動販売機に、飲み物を買いに出かけたときのことでした。
 お屋敷からはそう離れてもいない自動販売機。夜でも煌々としており、夜はいっそう暗い冥土でも、すぐに場所がわかります。
 冥ちゃんは、コインの投入口にタンポポのマークの入ったお金を入れて、お目当ての飲み物のボタンを押しました。

「あれ? おかしいぞ……」

 なんと、飲み物が出てこないのです。
 何度ボタンを押しても、何度お金を返却するレバーを回しても、うんともすんとも言いません。

「え……なんで?」

 これは困りました。なぜなら今、冥ちゃんは喉が渇いて仕方がありません。
 それに今日の冥土は、蒸し暑い熱帯夜。
 こういう時は、キンキンに冷えたシュワッとしたジュースを喉に流し込みたいのに、それが叶いません。
 もしかしたら、機械の故障かもしれないと途方に暮れていると、後ろからお兄さん幽霊がやってきました。
 冥ちゃんは譲るように数歩後退ると、お兄さん幽霊は普通にお金を自動販売機に入れてジュースを買いました。
 ボタンを押す瞬間、冥ちゃんはその自動販売機、壊れているかもしれないのにと、思っていたましたが……

ガシャン!

と、音を立ててジュースが出てきました。

「なんで……?」

 冥ちゃんは戸惑いました。
 そしてそれと同時に、お金も返ってきてないし、飲み物も買えなかったので怒ってしまいました。
 お屋敷の窓から青カカポチャンがずっとその様子を見ていましたが、青カカポチャンもずっと首を傾げていました。

 少ないとはいえ、大切なお金を奪われた冥ちゃんは、その後しばらく、自動販売機を使わなくなりました。

 ですが、それからしばらく経った、ある日のことです。
 青カカポチャンが、お散歩中に自動販売機の前を通りかかると、なんと自動販売機の下にお金が落ちているのを見つけました。

(モシカシテ、コレハ、メイチャンノ、オカネカモ?)

 そう思い、青カカポチャンは午後のお掃除中の冥ちゃんの元へ急ぎました。
 フクロウオウムなので人間の言葉を話せない青カカポチャンは、一生懸命、冥ちゃんの継ぎ接ぎのメイド服の裾を引っ張ります。

「どうしたの、青カカポチャン?」

(メイチャンノ、オカネ、アッタヨ!)

「お腹空いたの? さっきお昼ご飯食べたばかりでしょ。まだダメよ」

 青カカポチャンの必死な気持ちは、うまく冥ちゃんに伝わりません。
 それでも、くちばしで懸命にメイド服の裾を引っ張ります。

「ちょっともう……破けちゃうでしょ!」

(メイチャンノ!メイチャンノ、オカネ!)

「もう!お掃除の邪魔をする青カカポチャンは、今日の晩ごはん抜きだからね!」

 冥ちゃんは、そう青カカポチャンを叱りました。
 そして冥ちゃんが青カカポチャンを振り払うと、くちばしで咥えていた裾の一部が破けてしまいました。

「あーあ……また縫わなきゃ」

 青カカポチャンのくちばしから、生地の破片を取ると、冥ちゃんはそれを大事そうにポケットに入れ、お掃除に戻りました。
 青カカポチャンは肩を落としてまた自動販売機の前まで歩いていきました。
 すると、自動販売機の下に落ちているお金を悪い幽霊さんが拾おうとしていました。

(ソレハ、メイチャンノダ!)

 なんと、青カカポチャンが悪い幽霊さんを啄いて喧嘩を始めてしまいました。

「な、なんだこの鳥!」

(メイチャンノオカネ! トッチャダメ!)

「イテテテ……やめろ!わかった!わかったから!」

 青カカポチャンは懸命に、悪い幽霊さんから冥ちゃんのお金を守ろうとしました。

「ったく……なんて鳥だ。覚えてろよ!」

 そのおかげで、悪い幽霊さんはその場を去り青カカポチャンは冥ちゃんのお金を守り抜きました。
 すると、騒動を聞きつけた冥ちゃんがお屋敷から出てきました。

「青カカポチャン!何してるの!ダメでしょ、そんな事しちゃ!」

 懸命に戦った青カカポチャンを、冥ちゃんは他の幽霊さんに乱暴していたと思い、しかりましたが、青カカポチャンがくちばしで自動販売機の下に落ちている数枚のコインを突くと、冥ちゃんはそれに気付きました。

「あれ? これって……もしかして青カカポチャン、ずっとこれを教えようとしてくれてたの?」

 青カカポチャンは首を二度縦に振りました。
 冥土のお金は特徴があり、コインにはマークが入っています。
 そして、それは明らかに冥ちゃんが自動販売機に入れたタンポポのマークの入ったコインだったのです。枚数もバッチリです。
 冥ちゃんは青カカポチャンを抱きしめながら、

「ありがとう!青カカポチャン!」

と、お礼をいいました。

「夜だから、私気付かなかったのかな? お金をちゃんと入れれてなかったら、そりゃ買えないよね」

(ヤッパリ、メイチャンハ、ボクタチガイナイト、ダメダネ)

「あ、今バカにしたでしょ!」

 冥ちゃんは笑いながらそういうと、また青カカポチャンを抱きしめました。

「そうだ、ジュース、買って帰ろうかな」

 冥ちゃんは拾ったお金で早速、ジュースを買おうとしましたが、自動販売機はまたうんともすんとも言いません。

「なんでよー!もう!」

 しかしここで、青カカポチャンはあることを思い出しました。

(モウ、イジワルシナイデ、アゲテヨ)

 青カカポチャンがそう言うと

ガシャン!

と、けたたましい音がして、お目当てのジュースが出てきました。
 冥ちゃんは少し驚いて、ジュースを取り出すと笑顔に戻って小さなスキップをしながらお屋敷に戻りました。
 青カカポチャンも後を追うように

ドテドテドテッ!

と、走って着いて行きました。

 ここだけの話、実は自動販売機も幽霊だったのです。
 いつも買いに来る冥ちゃんの気を引く為に意地悪をしようと閃いたのが、ジュースを出てこなくする、だったのです。
 でも、冥ちゃんが怒って帰っちゃった上に、それから買いに来てくれなくなってしまって寂しかったから、お金を返そうとしたのです。
 しかし、自動販売機はそこから動けません。だから誰かに気付いてもらうために、お金を傍に落としたのです。
 青カカポチャンはそれに気付いていたかって?
 もちろん、気付いていたました。
 でも青カカポチャンは、冥ちゃんのお金が落ちていることを教えるのに必死で、実はそのことを忘れてしまっていたのです。

 お屋敷に戻ると、冥ちゃんは早速買ったジュースを飲みます。
 青カカポチャンは物欲しそうな目で、冥ちゃんを見つめています。
 が、冥ちゃんはジュース一気の飲み干してしまいました。

「プハーッ!美味しい!さ、お掃除に戻らなくちゃ」

 青カカポチャンは、しょんぼりしながら水飲み場へ向かうのでした……。

 そこにいた赤カカポチャンと黄カカポチャンと一緒に水を飲みながら、今日の出来事について話していました。
 ふたりとも、笑いながらその話を聞いていました。
 そしていつものように、みんなで空を飛べたらどうするかの議論が始まりました。

 議論が白熱し、しばらくそうしていると、なかなか戻ってこないので、冥ちゃんにみんなで叱られました……。

 でも、青カカポチャンにはちょっぴり優しい冥ちゃんでした。


 ここは冥土。
 あの世でもこの世でもない。彷徨える魂たちが集う場所。
 メイドの冥ちゃんと3羽のカカポチャンがお屋敷で楽しく暮らす場所。
 今日もお給仕を終えた冥ちゃんは、お屋敷の屋根裏の自室で、現世と通信しながら楽しくお喋りをしています。
 そしてカカポチャンたちはと言うと、仲良くベッドで寝息を立てています。
 幸せそうに眠っていますが、楽しい夢でも見ているのでしょうか?
 夢の中で大空を飛び回っているのでしょうか?
 それとも、美味しいごちそうを食べているのでしょうか?
 みんな、時折笑い声をたてながらすやすやと眠っています。

 明日はなにがあるのかな?

おしまい。

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