あひるの部屋7回目 ゲスト奈月遥さん

今回のゲストは奈月遥さん。和風の造語「未言」を作っていらっしゃる方にして、あひるも何回か歌会でご一緒させて頂いている方です!

あひる「では、よろしくおねがいします。」

奈月さん「よろしくお願いしますー」

あひる「それでは、短歌を始められたきっかけから教えてください。」

奈月さん「短歌のきっかけというと、二回きっかけがあるんですけども。これは年代順を追って話した方がいいですかね?」

あひる「はい。おねがいします!」

奈月さん「はーい。小学校3年生4年生の時の担任の先生が、百人一首かるたを教室に用意してくれてたのです。それで、授業が早く終わると、クラス全体で百人一首大会、休み時間もやりたい人が集まって百人一首をやってたのです。それで、もうはまってしまって。そもそも、うちの母親が百人一首かるたを持っていたり、わたしに百人一首の本をいくつか買ってくれたりと、短歌に慣れ親しんだのはその頃ですねー。それでも、まぁ、それで短歌を詠んだかというと、学校の授業でしか詠まなかったのですけども。
自発的に短歌を詠み始めたのは、大学になってからです。大学の入学式で、創立者のお話があったのですが、そこで「文化人へ、もっとも感謝と称賛を伝える贈り物とは、詩である」というお言葉をいただいたんです。
それで、わたしが創れる詩で、そういう特別な時に創りたいものは、自由詩よりも短歌だったんですよね。自由詩は、もっとこう、日常的なものだったんです、わたしの中では。だから、今でも、送別とかお誕生日とかに短歌を贈ったりしてますねー。」

あひる「たくさんお話ししてくださり、ありがとうございます!百人一首から短歌の世界に入られたのですね。正統派だと思いますが、意外と珍しいパターンですね。
わりと、俵万智や穂村弘の影響で始めた方が多いイメージなので。ということは、大学でも日本文学を学ばれたのですか?」

奈月さん「逆に近代、現代歌人の短歌ってほぼ読んでないので、だいたい話題になると、え、だれ?ってなります。大学は工学部で環境が専門でした。理系ですよ、理系。」

あひる「そうですよね(笑)
そうだったんですか!環境にも興味があったのでしょうか?」

奈月さん「わたしは、環境保護官に当時なりたかったんですよー。森を守る人。」

あひる「環境保護官!勉強不足で詳細は知らないのですが、山林の環境や生態系の維持をするお仕事というイメージです。憧れます…。歌の話に戻りますが、奈月さんとは何回か歌会でご一緒させて頂いていますが、短歌というより和歌のイメージを強く感じます。これも百人一首の影響でしょうか?」

奈月さん「いつも歌会ではあひるさんの歌に楽しませてもらってます。
わたしの短歌、まぁ、わたし自分では「お歌」というのが多いのですが、和歌に近い要素はいくつかあるかなと思ってます。古語で古文文法で詠んでますし。
そのうえで、百人一首の韻律が身に沁みついてると自覚してますです。」

あひる「ありがとうございます!
やはり小さい頃に読んだものの影響は大きいですよね。私は小学生の頃に読んだ北原白秋の作品に、今なお多大な影響を受けています。
百人一首ですと、私は式子内親王の「玉の緒」の歌が一番好きなのですが、奈月さんの推し歌はどれですか?」

奈月さん「たくさん好きなお歌はありますよー。
清少納言の「夜をこめて」は一押しですね。
それと一番最初に覚えたのは蝉丸の「これやこの」です。清少納言はわたしの憧れです。教養の豊かさ、教養を使いこなす知恵、定子様との絆、微細なものを見出す観察眼、全てが素晴らしいです。」

あひる「漢詩といい機転といい、素晴らしいですよね。今頃定子様と、御簾を上げて下界の雪を見ているのでしょうか。
となると枕草子もお好きですよね!好きな段やエピソードはありますか?」

奈月さん「枕草子はどれも好きなのですけれど、やはり「雪月花」が出てくる段はうっとりとします。
あとは、特定の段ではないですが、「ものづくし」は好きですね。あの清少納言があるものの中で「素晴らしい」と思ったものを羅列して、しかして説明を加えないところが、もう勇ましくて美しいです。「ものづくし」のいくつかは、清少納言が作り出した独自の言葉を紛れこませているのではないかと思ってますが、そういう人が見出さないものの持つ美しさを見つける審美眼が素晴らしいです。」

あひる「その段は未読なのですが、少納言らしさが溢れていていいですね。枕草子は第一段は教科書にもあるくらい有名ですが、情景描写が本当に素晴らしいですよね。
いま独自の言葉を紛れ込ませているとお話しになりましたが、それもいま奈月さんがなさっている「未言屋」の活動の源なのでしょうか?」

奈月さん「やっと未言の話ができますね! もう出来なかったらどうしようかと思っていました!改めて説明を少しさせてくださいまし。
「未言」とは、「未だ言にあらざる」。この世に確かにある物事でありながら、まだ誰も言葉を与えなかったものに言葉を与えた造語です。
しかしながら、枕草子と未言にはなんの因果もありません。むしろ、未言を生み出す中で、枕草子の美しさを再認識して、先ほどのものづくしへの考察が出てきたのです。」

あひる「奈月さんは「未言屋」という活動を主宰されており、メンバーの方たちと様々な未言を編まれています。気になった方はぜひ、公式のホームページか、奈月さんのアカウントをご覧ください。ちなみに「米知らせ」が好きな未言です(せんでん)」

奈月さん「宣伝ありがとうございます(笑)米知らせは、お米の実りを香りで知らせる風のことです。気になるかたは、秋に田んぼへお越しくださいまし」

あひる「ふむふむ。未言での活動から、古典への見方が深まったのですね。
では、奈月さんが未言を作ろうと思ったきっかけについて教えてください。」

奈月さん「もともと小説や詩や短歌で自分独自の表現を用いるのが好きだったんですよね。もう、これを伝えるには既存の言葉でなくて、これでなくてはいけない、と。
そんな中で、ツイッターの知り合いが短歌の企画で「造語を入れた短歌」というのがあり、困ってたのに、こんなのどう?と一つ提示したのがきっかけです。
その最初の未言が「上光」、雲の上から透けて見える光のこと、ですね。
ちなみに、わたし自身はその企画に参加してません(笑)」

あひる「未言は短歌が源流だったんですね。たしかに、世界にはまだ言葉になっていないだけの現象や情景がたくさんありますよね。すこしでも多くの未言が生まれますように。
奈月さんといえば「フィンランド」もキーワードかと思いますが、こちらもなにかの影響ですか?」

奈月さん「これはですねーTwitterの始めたきっかけが大学の後輩に、フィンランド語かわいいですよ、大使館の公式アカウントめっちゃいいですよ、って唆されたのですよ。見事にはまりました。猫が「きっさ」とか、もうめっちゃかわいですよね。猫語と名高いフィンランド語に相応しい言葉ですよね。ネコカフェをフィンランド語と日本語組み合わせると「きさ喫茶」になるんですよ、もう東西の言語を超えた奇跡の可愛さでしかないと思うんですけど、どうですか???」

あひる「きさ!きっさ!!めちゃかわいい!!!
フィンランド語やろうかな…。
フィンランドといえば、去年公開された「オンネリとアンネリのおうち」というフィンランド映画が暴力的なまでのかわいさなので、ぜひご覧ください!
他には文化や自然も魅力的ですよね。」

奈月さん「そうなのですか!? その映画はノーマークでした。最近だと、「雪の華」もフィンランドでロケされていて、とても見どころがありますよ。
フィンランドって、日本に似た文化や感性がたくさんあるんですよね。それもフィンランド大使館のツイートで知ったのですけど、それだけでもとてもよかったなと思っています。
フィンランドの人も桜が大好きなんだそうですよ。」

あひる「今年中に円盤になりますし、いま東京のユーロスペースという映画館で北欧映画特集をやってるので、よろしければ!
ありがとうございます。ちょっとフィンランドに注目していきますね!
そろそろしめに入りますが、奈月さんから「これは語りたい!」ということはありますか?」

奈月さん「うみみ、そうですね。やはりわたしらしさで言えば、未言を皆さんにたくさん使ってほしいな!とこれに尽きるかと。
未言も使われていってこそ、言葉になっていけると思っているのです。」

あひる「たしかに素晴らしい言葉たちばかりですからね…。こんど未言で歌を作ってみようかな。私も未言を見つけていきたいです。
今日は長い時間ありがとうございました。」

奈月さん「そう言っていただけて、とても嬉しいです。こちらこそ、楽しくて素敵な時間をありがとうございました! これからも歌会などでよろしくです!もいもいっ♪」

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